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映画「零落」雑感
今日は工房での作業を休んで家内と映画に行ってきました。私の高校時代の同級生に俳優の竹中直人さんがいます。彼が映画監督をした「零落」が今日横浜の映画館で初日を迎えたので、早速観に行ったのでした。原作は浅野いにお氏による漫画「零落」で、8年間の連載が終了した人気漫画家が主人公です。連載を終えた彼は燃え尽き症候群のようになり、自堕落な生活を送っていました。漫画編集者の妻とは離婚の危機となり、今時の売れ筋漫画には納得できない中で、彼は猫の目をしたミステリアスな風俗嬢と出会います。映画全体としては主人公の心理描写が中心となって物語が進み、売れっ子漫画界の薄ぺらい時流を嫌いつつ、彼が関わっている周囲の人たちとの丁寧で癖のある描写がなかなかいいなぁと私は感じていました。本作は表現者にとっては厳しい一面がある内容で、その表現内容を深化させたい欲求と、世間が求めるものとの差異がくっきりと浮かび上がっていきました。ミステリアスな風俗嬢との付き合いは、彼に本当の癒しを与えるものだったのでしょうか。果たしてそれによって彼は起死回生を図ることができたのでしょうか。映画には竹中直人さんの多摩美大時代通っていた喫茶店を使っていたと図録で知りました。私もその頃、別の美大に通っていて、自己表現をことしか頭になかった青春時代を送っていました。彼の映画では自らの青春時代の記憶がうっすらと漏れているような感覚が漂います。お互い横浜生まれなので、歓楽街として知られた福富町が登場して、妙な懐かしさが甦ってきます。私は彫刻という日本では浮世離れした表現媒体を選んでしまいましたが、映画は自らの人生のエピソードを盛り込める要素があって、役者に演じさせながら監督自らの主観がところどころに見え隠れして、そこが楽しめるものなのかもしれません。勿論それは同級生目線であるという偏った感性でもあるのですが…。