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東京駅の「不染鉄」展
先日、東京駅にあるステーションギャラリーに立ち寄り、日本画家不染鉄の展覧会を見てきました。没後40年を記念して開催された回顧展でしたが、私は不染鉄という日本画家を知らず、初めて見る作品ばかりでした。まず、民家の立ち並ぶ俯瞰した風景画に魅了されました。墨の濃淡や暈しを利用した「朦朧体」や南画の影響が見て取れましたが、その画力の高さに驚きました。ポスターにもなっている「山海図絵(伊豆の追憶)」は富士山を描いた大作ですが、ちょうど箱庭を見るような独特な構図と描写が際立っていて、集落や手前に広がる海岸線、波間に泳ぐ魚や漁をする船もあり、俯瞰と接近描写が一つの世界を形作っていました。雪を頂いた富士山を描いた日本画の中では、独自の視点をもつ不染鉄の代表作とも言えます。不染鉄は、各種展覧会での数々の受賞歴があり、若い時は大島に渡って漁師をやっていたり、奈良では教職に就いたりして、エピソードの多い変わった生涯を送った人のようでしたが、画壇とは一線を引いていたので、知名度は実力ほどになかったのではないかと感じました。今回の展覧会には多くの人が訪れて、不染鉄ワールドに酔いしれていました。描写力と様式美が混在する画風は、見ていて分かり易い一面もあって、今後人気の出る画家かもしれません。私は個人的に不染鉄ワールドに度々登場する大海の波の表現が好きで、そこに点在する島々との描写対比が面白かったし、超絶技巧とも言える集落の表現に惹かれました。さすが漁師をやった人だけあって、海を人一倍見て過ごしていたのでしょう。絵画が単なる様式にならず、説得力をもっているのは、実体験からくる海の観察があればこその表現であろうと思います。