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「保田龍門・保田春彦 往復書簡1958ー1965」読後感
「保田龍門・保田春彦 往復書簡1958ー1965」(武蔵野美術大学出版局)を読み終えました。遅々として進まなかった書籍を、仕事の合間を縫って畳み込むように読んでしまいました。本書の最後に美術評論家酒井忠康氏による解題がありました。それによると「父龍門が、自分もまた息子と似たような人生を生きたことに対する苦い思いを縷々手紙に記している。そういう理由から、わたしは『芸術の道を選んだ息子に宿命の印を押して突き放している』と書いたけれども、息子春彦は西洋文明・文化への情景と畏敬の念をつよく懐いて渡航の途についたことにかわりない。」という箇所があり、父子共にそれぞれの時代の西欧に学んだ様子が、具体的に些細な部分も疎かにせず、しかも克明に描かれていました。また、「本書は、親子『ないしは身内の者同士』の心くばりの通信をたばねた書簡集である。したがって第三者的な視点に立つばあいにも、どこか言葉の端々に親子がたがいにわが身に照らして語る自省の意識を感じさせるものがある。父子ともども直言の人であるのにかわりないが、わたしには人生という盤面を挟んで二人が最善手を探し求めて指している一種の棋士のように映ってもいた。求道者の横顔をみたといってもいい。」という一文は親子でなければわからないところがある反面、創作に打ち込む上で、一貫して凛とした姿勢が見て取れて、思わず襟を正したいと感じたところも少なからずありました。これは環境的にも教育的にも特異な書籍と言っても過言ではなく、自分に忘れることができないほど強烈な印象を残しています。