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カフカ「城」の再読を始める
「城」(カフカ著 前田敬作訳 新潮社)の再読を始めました。先月の関西出張の時に新幹線の中で読んでいたもので、途中で放棄していたのでした。本著は読んでいくと何となく居心地の悪さを感じさせるような場面が多く、主人公の立ち位置がはっきりしない状況が見て取れます。以前読んだ「変身」にも同じような雰囲気があったので、これはカフカ文学の特徴なのかもしれないと思っています。カフカは旧オーストリア帝国に属していた現チェコのプラハに生まれたユダヤ人でした。41歳でその生涯を閉じていますが、生涯を通じて自己存在を問い、いかなる世界にも所属していない賤民感覚があったらしく、それをして彼の独特な文学が形成されたと言っても過言ではありません。西方ユダヤ人として生を受けたカフカは、正統ユダヤ教徒ではなく、かといってキリスト教世界にも属していませんでした。ドイツ語を使用していましたが、チェコ人ではなく、ボヘミア・ドイツ人でもなく、旧オーストリア帝国にも所属感のない存在でした。就労でも保険局吏員として市民階級や官僚にも属せず、家庭内では父親との関係で、作家としての自覚も薄い存在でした。そんなカフカが一見平穏を装いながら、所属意識を問いかける存在喪失を描いたとしても不思議ではありません。カフカはそんな宿命を負ったことで、新しい文学への扉を開いた偉業を成し遂げた作家ですが、生前の本人にはそんな意識はなかったかもしれません。今日から「城」の読破に挑みます。ニュアンスは若干異なりますが、哲学者ハイデガーの言った「世界内存在」を文学によって解釈し、また課題化した作品と私は考えています。