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「戸谷成雄 現れる彫刻」展について
昨日、武蔵野美術大学美術館で開催している「戸谷成雄 現れる彫刻」展を見てきました。彫刻家戸谷成雄氏は同大の教壇に立っておられます。チェンソーで丸太に多角的に無数の切り込みを入れ、それを林立させた「森」シリーズを見て、私は廃墟の街のような雰囲気を感じました。そのまとまった作品群を見たのは2011年に静岡県にあるヴァンジ彫刻庭園美術館での個展でした。「洞窟の記憶」と題された作品を見て、虚の空間の衝撃が私を襲ったのでした。あれから数年が経ち、また戸谷ワールドに触れる機会がやってきました。同大美術館で私が注目した作品は「《境界から》Ⅴ」でした。壁の内外に設置された巨大な実と虚の関係、圧倒的な量塊の前で私自身は戸惑いを隠せませんでした。「《境界から》Ⅴ」は、そこに物質が存在する意味を自分なりに見つめなおした作品でした。図録によると「確かに『ある』と分かっているにもかかわらず見ることはできない何か、はっきりとした形は有していないけれども『ある』ことは確かなもの、そういうものの存在を、その『現れ』のただなかに捉えているのが戸谷の彫刻である、と考えてみたい。~略~ひとつは、実と虚の関係は、いつでもひっくり返りうる可能性をはらんでおり、人間の存在とは、そのふたつのせめぎ合いのうちにあるということである。そしてもうひとつは、実と虚とのあいだの境界にある『表面』の問題の重要性である。~略~彫刻を、内部構造から作られるのではなく、外部の表面から生まれると捉えるようになったとき、求心的な内部構造に代わって現れたのは、多中心的な表面であった。」(田中正之著)というもので、戸谷ワールドの理解をサポートしてくれる文章と思いました。実と虚の関係は、私も大変興味ある空間解釈で、戸谷ワールドの簡潔でストレートな力強さが私を戸惑わせた要因かなぁと思った次第です。