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映画「ザ スクエア」雑感
先日、常連になっている横浜のミニシアターに「ザ スクエア」を観に行ってきました。現代美術を扱っている映画というだけで、私は映画館に出かけましたが、内容は人間性の本質に迫る風刺の効いた辛辣なものでした。床に正方形を描いただけの作品が”ザ スクエア”で、枠内では全ての人に平等な権利と義務が与えられるという約束になっていて、この中にいる人が困っていたら、誰であれ手助けをしなければならないというものです。映画ではそうした自らが支持するモラルと、実際に自分が起こす行動との間に差が生じ、葛藤していく場面が描かれていました。現代美術館のキュレーターである特権意識の高い主人公が、”ザ スクエア”を準備する段階で、通勤中に財布と携帯電話を盗まれ、犯人が居住しているビルを探し出し、脅迫めいた手紙を配ります。”ザ スクエア 思いやりの聖域”を扱う美術館の仕事と、犯人捜索のために他人を思いやることがない脅迫文。同時進行して”ザ スクエア”を広報するためPR会社の若手社員が、炎上商法を思いつき、事態はとんでもない方向へいってしまい、やがて主人公は社会的地位を追われることになっていくのです。個人主義と共助の関係、集団的無関心と信頼との関係、寛容な社会とはどのようなものか、メディアの影響力とはどんなものか、この映画は日本人からすれば福祉が発達したスェーデンの現実的な社会を描いていたことも、私には衝撃的でした。映画は私たち観客をも刺激し、こんな場面に遭遇したら、あなたならどうしますか、と問われているように感じました。理想を掲げながら、欲望のために現実から目を背ける自分の闇の部分が暴かれているようで、映画全編にわたって居心地の悪さも感じました。そんな感想を持つことで、私たちはまんまと監督の術中に嵌ってしまっているのかもしれません。社会心理学で言うところの「傍観者効果」や、メディアによる過激な発信を好んでしまう私たちの集団的心理を浮き彫りにした本作は、まさに観客挑発型の映画と言えるでしょう。