Yutaka Aihara.com相原裕ウェブギャラリー

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「形態と色彩の新しい概念」について
「中空の彫刻」(廣田治子著 三元社)の「第二部 ゴーギャンの立体作品」の中の「第3章 彫刻的陶器への発展と民衆的木彫の発見(1887末~1888末)」に入り、今回は「2 形態と色彩の新しい概念」をまとめます。「マルティニークでの経験が絵画において印象派との断絶を促進し、装飾的様式と総合主義的傾向を固めていったように、陶器においてもブルターニュに取材した牧歌的な主題が減少してエグゾティックなモティーフが登場するとともに、装飾要素はもはや器の表面に付加されるのではなく器と一体となって、全体である種の喚起力をもつものとなった。」冒頭の文章で述べられているように、いよいよゴーギャンが印象派を超え、新たな世界を手に入れていく過程が、絵画のみならず陶器や彫刻でもあったようで、とりわけ本書は、ゴーギャンの立体作品を中心とする論考だけに私の興味は尽きません。本書は幾つかの陶器を手がかりに、ゴーギャンの歩んだ革新性の道を辿っていきます。ゴーギャンの向かう道は、器としての用途より、創作性を重んじており、肖像が彫られた壺や彫刻的な装飾を付加した器など、陶器より彫刻への移行が感じられます。その中で本書に取り上げられている「鳥と女神のいる熱帯の植物の形をした花瓶」について、著者の論じた部分を引用いたします。「装飾モチィーフとして、片面にはブルターニュの鵞鳥が一羽入念な塑像浮彫で表され白いスリップがけが施されている。その上には器の形に沿って木の枝が十字型を形成するように表されている。反対側の面には、足の部分が壺に埋まった(あるいは壺から現出するような)女性像が浮彫で表されており、そのポーズはカンボジアの仏教寺院の女神像『テヴァダ』に由来する。しかし頭部はカンボジアの女神の豪華な装飾はつけていず、マルティニークの女性に近い。~略~この独創的な花瓶はこのように、植物モティーフや動物、十字架の形、そして仏教図像を借りた『木に宿る女神』から構成されている。これらを総合するなら、そこから西洋的でも東洋的でもある聖性、そして自然の中に宿る聖なるものの意味が浮かび上がる。」