Yutaka Aihara.com相原裕ウェブギャラリー

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「 《オヴィリ》1・2」について
「中空の彫刻」(廣田治子著 三元社)の「第二部 ゴーギャンの立体作品」の中の「第5章 タヒチ滞在(1891~1893年)とパリ帰還(1893~1895年)」の「3 《オヴィリ》1」と「4《オヴィリ》2」をまとめます。ここで漸くゴーギャンの彫刻の代表作である「オヴィリ」が登場します。「炻器による彫像《オヴィリ》は、ゴーギャンが自らの墓に置いてほしいと望んだ彼の畢生の大作であるとともに、この芸術家独自の陶製彫刻として究極の作品である。また、19世紀末の象徴主義と20世紀前半を席巻したプリミティヴィスムの特質を併せもち、曖昧で多義的な謎めいた意味を喚起しながら、オセアニアやアフリカ彫刻のように呪術的な眼差しをもっているのである。」さらに作品の詳しい説明が書かれた部分を引用します。「背面の裂け目は、日本の焼き物において珍重される偶然の効果による割れ目を模したものかもしれない。けれどもゴーギャンは、それを彫刻の一要素に変換する。開口部を開きながら、彼は意図的に中空の内部を見せ、それが陶器であることを示すのである。おそらくここに多=分野性を旨とするゴーギャンの陶製彫刻の最大の特質があるのである。『中空の彫刻』は、陶芸であることに基づく必然的結果であったが、ヴォリュームをもたない身体表現の実現によって、彫刻は中空の空間を覆う表面の上で展開するものとなり、三次元性のイリュージョンに頼らない自律的彫刻が生み出されたのである。」作品の彫刻史上の位置として書かれた箇所を引用します。「《オヴィリ》は、オセアニアとボロブドゥールの要素を採り入れた人体表現の創造という点で、西洋彫刻史において初めて、ギリシャ彫刻の伝統の桎梏から解き放たれた人体彫刻なのである。~略~かくして《オヴィリ》においてゴーギャンは、ロマン主義の浮彫の手法を採り入れた立像形式を用いて、プリミティヴな彫刻に倣った正面によって自律性を獲得しつつ、斬新な空間の観念を提示したモダンな彫刻を実現したのである。」文中にあったボロブドゥールの遺跡はインドネシアにあり、私は過去に一度訪れています。仏教思想の巨大な遺跡で、その周囲にあった浮彫は今も記憶にあります。「オヴィリ」の図版を見ていると、ボロブドゥールの遺跡から受けた啓示があるのかなぁと思います。ゴーギャンはボロブドゥールの遺跡を書籍で知ったはずですが、自らの表現に採り入れたのだろうと思います。私もエーゲ海沿岸の古代都市からイメージを膨らませましたが、自己表現を求めるためには洋の東西を問わず、自らの思索や感覚に従って素直に採り入れていくことは、私も身をもって体験しています。