Yutaka Aihara.com相原裕ウェブギャラリー

note

映画「HOKUSAI」雑感
以前、横浜のミニシアターで映画「大英博物館プレゼンツ 北斎」を観ました。大英博物館で葛飾北斎の展覧会があり、その展示の舞台裏や北斎絵画の学術的検証、北斎の人生を読み解く考察などが描かれた西欧人によるドキュメンタリーで、海外にファンの多い北斎の魅力を映画では余すところなく描いていました。ここにきて漸く北斎の画家人生にスポットを当てた日本の映画が登場しました。同じ横浜のミニシアターで今日は映画「HOKUSAI」を観てきました。朝早い上映だったので家内と車で出かけ、映画を観終わった後に感想を交えて昼食をとりました。北斎は平民だったために生涯に関する資料が少なく、とくに青年期の苦悩する絵師だった北斎をどう描くのかが脚本を初めとする演出陣の見せ場だったのだろうと思いました。この時代は美人画が中心で、歌麿や写楽が流行絵師として登場していましたが、苦闘の末、北斎が「江島春望」の波に辿り着くまでの行程に説得力を持たせていました。版元であった蔦屋重三郎に存在感があり、結果としては北斎を育てた恩師になっていました。老齢期に差し掛かった北斎を鼓舞させた戯作者柳亭種彦も、武士でありながら時代に抗い、己を通した生き方が描かれていました。最後は小布施に行った北斎が「男浪」「女浪」を描くところで終幕になりますが、その前に描かれた「富嶽三十六景」の「神奈川沖浪裏」では版木制作から摺りまで再現されて、私としてはちょっと興奮しました。北斎の熟年期を演じた田中泯がベロ藍を手に入れた瞬間に雨に打たれながら外で踊り出す場面は、ダンサーならではの面白さがありました。世界で一番有名な日本人アーティスト葛飾北斎その人物をどう表現するのか、資料が残っていない分、象徴的な表現を取り入れて、リアルと幻想を巧みに合わせた物語は一見の価値はあると私は思いました。