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表参道の「鈴木其一・夏秋渓流図屏風」展
先日、東京表参道にある根津美術館で開催中の「鈴木其一・夏秋渓流図屏風」展に行ってきました。琳派として一括りにされる画家鈴木其一ですが、本展に出品されている「夏秋渓流図屏風」を見ていると、その画面構成にはさまざまな先達の作品を礎にしながら、独自の画風を模索した形跡が見られて、私としては興味関心が湧きました。これは画家自身が余程革新的でなければ日本画史を総括するような作風にならないのではないかと思った次第です。ともかく「夏秋渓流図屏風」はモザイクのような不思議な絵画です。緻密な写実があるかと思えば、文様化した平坦な画面があって、それが絶妙なバランスを保って屏風に仕立てられているのです。図録をショップで見ていたら「夏秋渓流図屏風」をめぐるフローチャートが掲載されていて、これは図録を購入するしかないと思ってしまいました。画面全体をあらゆる流派から参考にした部分が示されていて、その分析が楽しくて、見ていて飽きないのでした。主な参照事例としては円山応挙による「保津川図屏風」と、山本素軒による「花木渓流図屏風」です。しかも本展ではこの2点の作品が「夏秋渓流図屏風」の左右に展示されているではありませんか。図録の文章からその部分を拾います。「其一の『夏秋渓流図屏』と、全体の構図ならびに土坡や樹木の表現が近似した作品として素軒の『花木渓流図屏風』を、また渓流の構成がよく似た作品として応挙の『保津川図屏風』を見てきた。~略~『夏秋渓流図屏風』における光琳(尾形)の師である素軒の受容は、宗達(俵屋)や光琳など琳派の伝統への回帰と齟齬するものではない。むしろ、あくまで琳派の伝統を遡及して抱一(酒井)から離れようとするには、これ以上にないくらい効果的であった。加えて其一は、江戸琳派が崇敬した応挙も取り込む。この時期の其一の模索と飛躍が、過去の絵画伝統の咀嚼と再構成にあることを、あらためて証するものとなるだろう。もちろん、伝統回帰だけで『夏秋渓流図屏風』の特異な画風は説明できない。『夏秋渓流図屏風』の増殖するような点苔も、金色の不思議な地面も、ルーツは素軒の『花木渓流図屏風』に見出すことができ、また痙攣するような黒々とした岩は、『保津川図屏風』における水に濡れて黒い写実的な岩が参考にされたのかもしれないが、そんな指摘をしても、結果としての奇妙な表現の理屈にはならない。」(野口剛著)再度言いますが、本展の『夏秋渓流図屏風』の不可思議な世界観は、今も私を捉えて離さないのです。