Yutaka Aihara.com相原裕ウェブギャラリー

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「ウィーン工房・結論」のまとめ&読後感
「ウィーン工房」(角田朋子著 彩流社)を読み終えました。20代の5年間をウィーンで過ごした私にとって本書には特別な思いがありました。国立応用芸術博物館に展示されていたウィーン工房の製品の数々やウィーン分離派の活動に興味を覚え、クリムトの絵画をはじめ街中に点在するヴァーグナーの建築物を、私はよく眺めていました。美術書を扱う専門の書店で何冊か関連の書籍を購入したものの、当時からドイツ語を読むのが苦手で、私は図版を見ているだけでした。そんな私に「ウィーン工房」(角田朋子著 彩流社)は有難い書籍で、少しずつ内容を噛み締めながら本書を読ませていただきました。私は元来、過剰な装飾を好まず、ホフマンが製作した抑制の効いたデザインにしっくりきていて、ウィーン趣味は全て許容できるものではなかったと思っています。私はそんな構成の妙を己の感性に委ねているところがあるため、本書を読んで、自己感覚へ問いかけることもしてみました。本書のまとめとしてウィーン工房の振り返りの文章を引用いたします。「ウィーン工房には企業としての統一的なイメージが必要であり、その核となったのが、1907年以降、特に1910年代に発展した装飾的デザインであった。これらのデザインにはウィーンのクンストゲヴェルベシューレでのホフマン、チゼックのデザイン教育が重要な基盤となっており、さらに彼らの教育メゾットの根拠は1900年のウィーン分離派による学校改革にあった。このように、ウィーン工房デザインの最大の特徴である装飾性は世紀転換期の芸術刷新運動に遡り、ウィーン工房の誕生と変遷に結びついたアイデンティティであった。」さらにウィーン工房の今日性について触れたところを最後にしたいと思います。「ハプスブルグ君主国の最後の栄華にふさわしいウィーン工房の装飾的造形、そして分離派やオーストリア工作連盟と連携した創作・展示活動は領内の中央ヨーロッパ広域に圧倒的な影響を及ぼし、多くの場所でウィーンを介してヨーロッパのデザイン動向が伝播した。その意味で、帝都のデザイン運動は中欧全体の文化的遺産である。それは今日、共産主義時代を経てEU入りした諸国で政治・経済面に限らず、文化財保護と継承の観点からも地域的アイデンティティ再考の気運が高まる中、彼らの歴史的な共通地盤解明の糸口となる。また、ウィーン工房の幾何学様式から装飾的デザインへの変化はウィーンやパリの装飾文化を大いに発展させた。~略~しかし、装飾が実際には、過去や同時代の芸術的要素の応用による豊かな創造性の発露となったことを認めるべきだろう。装飾の肯定が女性メンバーの躍進を導き、職業としての女性デザイナーの誕生につながった点もウィーン工房の重要な功績である。さらに、装飾と感性的デザインの関係はポストモダンのデザイン手法の先駆として注目される。」