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「新様式の探求」のまとめ
「オットー・ワーグナー建築作品集」(川向正人著・関谷正昭写真 東京美術)の「第1章 新様式の探求」をまとめます。ここではテーマに沿ってワーグナーの代表的な建造物2点を取り上げることにします。まず、運河水門監視所について。「ワーグナーは、施設建築にも、ただ構造や機能の充足だけではなく新様式の表現を求めた。たとえば彼は、ドナウ川の治水事業に関連して建設されたドナウ運河に沿って、本流との分岐点にヌスドルフのドナウ運河水門・監視所(1894-98)、ウィーン旧市街のすぐ北にもう一つ、運河水門監視所(1906-07)を設計したが、これらの施設建築にも芸術的表現を与えている。前者では、水門本体は鉄構造の機械的な構造体だが、その両側には量感たっぷりの石造の台座の上に獅子の写実的彫刻が置かれている。鉄の機械と石の写実的な彫刻の統合を表しているのである。後者の場合は、彼の関心は青タイル、白い大理石、花崗岩を張った3層構成で左右対称という古典主義的なファサード造形に向けられた。」20代の頃に私も見たこの構造体は、旧態依然とした都市空間にあって、巧みに近代的な構造体を取り入れて、そのバランス感覚に私は快さを感じました。次に取り上げるのがマジョリカハウスと呼ばれている住宅で、私が毎日買い出しに行っていた青果市場から、よくその建造物を眺めていました。「38番地と40番地は、よく見ると、装飾の層である表皮(被覆)をはぎとった後の壁体は同じである。平滑な壁体に、同じ縦長の窓が、全く同じように縦横に配列されている。だが38番地は、コーロ・モーザー(1868-1918)のデザインによる乙女の横顔が彫りこまれた金色の大きな楕円レリーフなどが規則的に配列されるファサード、一方、40番地はマジョリカ焼きの陶板を張り詰めて全面に赤いバラが咲き誇る様子を生き生きと描き出すファサードと、全く異なる様式、全く対照的な印象を生み出している。表皮(被覆)全面の装飾様式の違いで、どれほど建築の印象を変え得るかと試すかのようである。」ワーグナーは古都であるウィーンの都市空間に、前時代と折り合いの良い優れた建造物を幾つも造り上げた建築家でしたが、一方で芸術に歩み寄った建築家でもあったと私は考えています。私が散歩中に飽きずに眺めたワーグナーの建築は、鉄の構造体でありながら抑制の効いたアール・ヌーボーの作品を見るような感覚に囚われます。次章ではワーグナーとアール・ヌーボーの芸術家たちとの接点が描かれているようです。楽しみに読んでいきたいと思います。