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「光と闇」について
「彫刻の歴史」(A・ゴームリー M・ゲイフォード共著 東京書籍)は彫刻家と美術評論家の対話を通して、彫刻の歴史について語っている書籍です。全体で18の項目があり、今日は5番目の「光と闇」について、留意した台詞を取り上げます。「この作品《※ピエタ》は現在、再建された聖ピエトロ大聖堂のバロック様式の身廊に置かれていますが、もとは主聖堂と1本の長い通路で結ばれた、古来のドーム式の礼拝堂に置くつもりで制作されていたのです。ミケランジェロが想定していたのは、鑑賞者がこの通路を出て、自分の彫刻をごく近くから、またそのままの高さで見ることでした。するとこの彫刻が暗い影のなかをほの白く光り、あちこちの蝋燭や頭上高くの窓を抜けてやってくる陽光を反射して、きらめくのが見えたはずです。《ピエタ》はどの部分をとっても、この闇と頭上からの光のもとで最大限の効果を発揮するよう計算されています。」(M・ゲイフォード)「光といえば、ジェイムズ・タレルが天才なのは、物体とイメージの両方を捨て去っているからだ。彼は光を、僕たちがものを見るための条件としてではなく、あるひとつの経験として僕らの前に提示している『スカイスペース』という彼のもっとも純粋なかたちの作品が刺激的なのはそこだ。~略~なんの小細工もない。そこにはただ見る者と、外を見上げるための開口部しかない。開口部は建築の構造によって縁取られてその一部になっている。でもその目的は僕らにかたちのないもの、かたちづくることのできないものと向き合わせることだ。その空間には、この不確定なものとある種の関係を結ぶための開口部がある。崇高なものへと導かれていくんだ。」(A・ゴームリー)「彫刻の機能を、既に存在しているものの再制作ー別の言い方をすれば紋章や象徴、あるいは再現の役割を果たすことーから解放することができれば、彫刻はほかの課題を遂行することができる。旧石器時代の洞窟の暗闇は、僕たちの存在の奥深くにある実存的な空虚の隠喩なんだ。ローマのハドリアヌス帝が再建したパルテオンの吹き抜けの中心は大きなドームになっていて、天井に開いた穴からはガラスなどを通すことなくそのままの自然光が差し込んでいる。2世紀につくられた格天井(四角形のくぼみで装飾された天井)で覆われた荘厳な空間は、幾何学的に完全な宇宙を象徴している。外の日差しから一転して円形の建物のなかに脚を踏み入れると、まさしくジェイムズ・タレルの『スカイスペース』のような体験ができる。これは洞窟に似た空間で、暗い地面が与えられたそのなにもない空間のなかで、太陽の通り道が円環上に動く円盤を描くんだ。その内部は太陽系の中心にある星と僕らとの関係を図式化していて、人を世界に向けて送り出したり、世界から戻ってくる人を迎え入れたりする。つまり子宮でもあり墓でもある空間との対話なんだ。そういうとても直接的な方法で僕らの意識を俗事から引き離し、天界について熟考するように促す。」(A・ゴームリー)今回はここまでにします。