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「〈虚〉の空間」について
「彫刻の歴史」(A・ゴームリー M・ゲイフォード共著 東京書籍)は彫刻家と美術評論家の対話を通して、彫刻の歴史について語っている書籍です。全体で18の項目があり、今日は7番目の「〈虚〉の空間」について、留意した台詞を取り上げます。「だいたい私たちは、なにもない室内をひとつの彫刻だなんて考えることはふつうありませんものね。彫刻というのはなにかしら中身が詰まっていて、削り出したりこねあげたりしてつくったかたちなのであって、穴ーここでは空虚と呼びましょうかーを彫刻だとはまず思わない。ところが洞窟のような構造には、初期の仏教徒やヒンドゥー教徒たちが岩を掘削してつくり出した聖なる場所のように、ときに荘厳なものがあります。」(M・ゲイフォード)「はるか昔の僕らの祖先たちは、ものを生み出すために地球の身体の奥深くにまで入っていきたいという衝動に駆られていた。そこにはなにか根本的なものがある。母体に戻る、つまり子宮のように削られて穴になった空間に戻ることで、そこがかたちの生成装置になるんだ。」(A・ゴームリー)「先史時代の作品がある洞窟に実際に入ってみると、まず気づくことがあります。壁のうねり、ひび割れ、染みといった偶然できた模様が、どれだけ人間が像を生み出す際の手がかりになったか、ということです。あの岩肌の隆起は馬の頭部のように見えるし、この岩の出っ張りは野牛の臀部のようです。地下の空虚でこうした意味ありげな形状をずっと見ていれば、出現してまもない人類に想像力の種も蒔かれるというものでしょう。」(M・ゲイフォード)「近代の彫刻はさまざまなやり方で、空洞や空虚、物質と物質の隙間を、物体性あるいは量感といったものと同じくらいに吸収してきた。ヘンリー・ムーアとバーバラ・ヘップワーズは、石材のなかの穴は、穴以外の部分と同じくらい興味深いものだという考えを持っていたんだ。これが虚の空間に対する関心の始まりさ。」(A・ゴームリー)「引き算は足し算に勝るとも劣らぬ創造行為ですねー結局、それこそが彫るということのすべてなのです。20世紀後期でもっとも有名な作品のひとつは、つまるところ大地を切削してつくった空虚です。制作者のアメリカ人芸術家、マイケル・ハイザーは、ネヴァダ砂漠につくったこの巨大な自作、《二重否定》(1969-70年)についてこう言いました。『あそこにはなにもないからね。それもひとつの彫刻なんだけれど』。」(M・ゲイフォード)「エチオピア・ラリベラの聖ゲオルギウス(の岩壁)教会とマイケル・ハイザーの作品とのあいだに関係があることは一目瞭然だ。これは言ってみればハイザーの作品に先行する、彼の作品みたいなものだよ。そして比較してごらん。これと、北アメリカ南西部のプエブロ族の人々が掘ってつくったタンク、井戸、貯水槽、キバなどの儀式用の地下の空間とを。地上に組み上げるのではなく、地中に切り込みを入れた、まさしく建築の対極さ。」(A・ゴームリー)今回はここまでにします。