Yutaka Aihara.com相原裕ウェブギャラリー

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「恐怖とフェティシズム」について
「彫刻の歴史」(A・ゴームリー M・ゲイフォード共著 東京書籍)は彫刻家と美術評論家の対話を通して、彫刻の歴史について語っている書籍です。全体で18の項目があり、今日は15番目の「恐怖とフェティシズム」について、留意した台詞を取り上げます。東京の六本木ヒルズの野外にある蜘蛛を模した巨大な彫刻に私は前から注目をしていました。「不安や偏執というのは、あまりそうは認識されていませんが、私たちが芸術と呼んでいるものにとっての豊かな源泉ですね。ルイーズ・ブルジョワの作品も、抑圧されたものを扱っています。中産階級の家庭生活が持つさまざまな面の裏側に潜み、隠され、そして蠢いているようなあらゆるものをです。ブルジョワ自身の説明によれば、子ども時代のトラウマの影響だそうです。彼女がよく話していることですが、父親と、彼女に英語を教えにきていた家庭教師は公然の不倫関係にありましたー彼女が感じたとおり、それは二重の裏切りです。~略~彼女のもっともよく知られたモティーフは巨大な蜘蛛、『ママン』です。その母性は私たちを包み込みますが、脅かすものでもあります。」(M・ゲイフォード)「僕は生命のイメージというものを考え直したいと思っている。理想的なイメージを一旦解体して現実に基づくものにしたい。直接的に身体を指し示すことのできる血液を、文字通り作品の主題の一部に組み込みたい。だからこそいま言ったドローイングを描くときに、チベットのタントラ修業のとき頭蓋骨でつくったボウルのなかで混ぜ合わせる物質、つまり血液と精液を使っているんだ。赤と白の液体は、身体を横断するもっとも重要なエネルギーの流れであるふたつの『ナーディ』を表している。白は脳/睾丸/中枢神経系をつなげる色で、赤は僕らの身体に生命を行き渡らせる血液の色だ。」(A・ゴームリー)「肉や骨も、この言い方が正しいとすればですが、彫刻の素材です。ペルーのミイラやパレスチナのエリコで見つかった、古代の頭像にも用いられています。そして中世のキリスト教徒たちを突き動かす力も、聖人や殉教者の遺した聖遺物が与えていたのです。巡礼者たちはこれをひとめ崇めようと何百kmという距離を旅し、その周囲にはみごとな教会を建て、富裕な者や権力者たちは競ってそのそばに埋葬されようと、あるいはそれを個人で所有しようとしました。理由は単純です。聖人や殉教者の骨には力がある。そしてその骨は、最後の審判の日には近くに置いておくとよい。そうすれば地獄に落ちずにすむからだ、ということです。」(M・ゲイフォード)今回はここまでにします。