Yutaka Aihara.com相原裕ウェブギャラリー

note

「牧場」について➀
「風土」(和辻哲郎著 岩波書店)の「第二章 三つの類型」の「3 牧場」について、気を留めた箇所を選びます。「3 牧場」はヨーロッパの気候風土を指し、結構長い論考であるため、3単元に分けていきます。「ユダヤ教を内に含むパウロのキリスト教がヨーロッパの世界に成長して行ったとき、沙漠的宗教としてのユダヤ教の乾燥性は否定せられながらも、預言者たちの道義的情熱はますます内的に生かされて行った。とともに、沙漠に見るを得ない『潤い』がヨーロッパ的キリスト教の特徴となり、愛の宗教としての優しみというごときものが力強く育てられて行く。マリア崇拝のごときは沙漠的であるよりもより多くモンスーン的であると言ってよい。このような乾きと潤いとの総合というごとき特徴は、ただ歴史的な発展としてのみは説き尽くされぬであろう。それはヨーロッパ的人間の性格にもとづく、ということは主張し得られる、しかしその性格がヨーロッパ的であるということはまさにそれが風土的であるということにほかならない。」私は気候風土が宗教に与える影響に敏感に反応してしまう傾向があるようです。次に地中海についての論考に移ります。著者が地中海を回った時の気づきが述べられていました。「それは海であるかも知れぬが、しかし黒潮の流れている海とは同じものではない。黒潮の海には微生物から鯨に至るまで無限に多種類の生物が生きている。しかるに地中海は死の海と言ってよいほどに生物が少ない。黒潮の海は無限に豊饒な海であるが、地中海は痩せ海である。地中海が荒涼な印象を与えたことは決して偶然ではなかった。それはいわば海の沙漠である。~略~地中海は古来『交通路』であり、そうしてそれ以上の何ものでもなかった。山は距てるが海は結びつける、ということは地中海についてのみは正しいのである。」また陸地についての考察もありました。「夏の乾燥と冬の湿潤とは、雑草を駆逐して全土を牧場たらしめる。このことは農業労働の性格を規定せずにはいない。日本の農業労働の核心をなすものは『草取り』である。雑草の駆除である。これを怠れば耕地はたちまち荒蕪地に変化する。のみならず草取りは特に『田の草取り』の形に現れている。それは日本における最も苦しい時期ー従って日本の住宅様式を決定している時期、暑熱の最もはなはだしい土用のころに、ちょうどそのころを繁茂期とする根強い雑草と戦うことを意味する。この戦いを怠ることはほとんど農業の放擲に等しい。しかるにヨーロッパにおいては、ちょうどこの雑草との戦いが不必要なのである。土地は一度開墾せられればいつまでも従順な土地として人間に従っている。」日本との陸地の違いを具体的に述べられていました。今回はここまでにします。