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「風土学の歴史的考察」➂
「風土」(和辻哲郎著 岩波書店)の「第五章 風土学の歴史的考察」の中で気に留めた箇所をピックアップします。今回の➂では本書の最終論考として、歴史哲学で名を成したヘーゲルについて扱っています。「若いころのヘーゲルの主たる関心は『歴史』であった。そうしてそのころの民族宗教に関する論文ごときは、明らかにヘルデルの精神において書かれている。が、やがて彼の側では彼より若いシェリングの華やかな仕事が始まる。悟性的な範疇に反抗して直観の権利を主張し、物理的世界を精神的なるものの現われとして説くのである。この影響の下にヘーゲルの神秘的汎神論とも呼ばるべき根本思想が成立した。」ヘーゲルはあくまでも西洋人としての思考があり、著者はそれに関して満足できない箇所があるようです。「彼が、世界史をあくまでも欧州文化の歴史と見る立場に立ちながら、しかも欧州以外に眼を放ってその自然類型を考えなくてはならなかったところに、我々は充分の意義を見だし得るのである。もし彼にしてシナ文化やインド文化の充分な意義を理解し得るような時代にあったならば、彼はこれらの文化の地理的根底についてさらに深く考えねばならなかったであろうし、またそこに取り出される自然類型の意義をもさらに深く反省しなくてはならなかったであろう。従って彼の掲げた自然類型を比較的効果薄きものたらしめたのは、世界史に対する彼の眼界の狭小のゆえであって、自然類型の意義が少ないからではない。」西洋の考え方に染まった世界史観は、へーゲル以降も続いていて、ヘーゲルの論理を否定したところから始まったマルクスやラッツェルが登場してきます。その頃は国土学は国家を論じ、国家を地理的有機体として扱うようになり、次第に現代に近づいていくように本書の論考は進んでいきます。本書は昭和初期に脱稿しているので、グローバルな時代を生きる私たちまでは到達していませんが、それでも風土から考察するさまざまな事象が今も不変なものがあり、私は本書によってその本質に幾度となく気づかされてきました。本書は難解な箇所も多い書籍ですが、風土という身近なテーマだったために、何とか意味を咀嚼して理解が及びました。40年以上も自宅の書棚にあった書物を漸く読み終えました。