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古寺巡礼「法隆寺の全体印象」について
「古寺巡礼」(和辻哲郎著 岩波文庫)は単元で分けず、内容として私の興味関心を惹いたものを順次取り上げようと思います。今回取り上げるのは「法隆寺の全体印象」です。法隆寺は、私が教職に就いていた頃に修学旅行でよく訪れていた寺院で、世界最古の木造建築を生徒たちに見せたい一心で計画していました。私は私事旅行でも来ていて、文中にあった「門を入って白い砂をふみながら古い中門を望んだ時には、また法隆寺独特の気分が力強く心を捕える。そろそろ陶酔がはじまって、体が浮動しているような気持ちになる。」とあり、その感情に共感を覚えました。「卍くずしの勾欄はこの建築の特異な印象の原因であるが、なぜそのように特異に感ぜられるかというと、並はずれて高いからである。また屋根の勾配が天平建築に比べて特に異国的ともいうべき感じを伴っているのは、その曲線の曲度が大きくまた鋭いからであろう。講堂は藤原時代の作であるから、曲がり方がはるかに柔らかくなっているが、それを金堂に比べると、尺度の上の相違はわずかでありながら感じは全然違っている。推古仏と藤原仏の間にあるような距たりが、ここにも確かに感ぜられる。この金堂を唐招提寺の金堂に比べても同じように建築の上に現われた天平仏と推古仏の相違は感ぜられるだろう。招提寺の金堂が『渾然としている』と言えるならば、この金堂は偏執の美しさを、ー情熱的で鋭い美しさを、持っているとも言える。そうしてその原因はあの曲度の鋭さにあるらしい。法隆寺の建築に入母屋造りの多いこともここに関係がある。寄棟造りの単純明快なのに比べて、この金堂の屋根に複雑異様な感じがあるのは、入母屋造りのせいであるともいえよう。この建築が特にシナ建築らしい印象を与えるのもそのせいであろう。しかし入母屋造りがみな同じ印象を与えるというのではない。あの度の強い曲線に結びついてあの感じが出るのである。」今回はここまでにします。