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古寺巡礼「金堂壁画」について
「古寺巡礼」(和辻哲郎著 岩波文庫)は単元で分けず、内容として私の興味関心を惹いたものを順次取り上げようと思います。今回取り上げるのは「金堂壁画」です。正式名称は「法隆寺金堂壁画弥陀浄土図」です。「この画こそは東洋絵画の絶頂である。剥落はずいぶんひどいが、その白い剥落面さえもこの画の新鮮な生き生きとした味を助けている。この画の前にあってはもうなにも考えるには及ばない。なんにも補う必要はない。ただながめて酔うのみである。中央には美しい円蓋の下に、珍しい形をした屏障の華やかな装飾をうしろにして阿弥陀如来が膝を組んでいる。暗紅の衣は大らかに波うちつつ両肩から腕に流れ、また柔らかに膝を包んで蓮弁の座に漂う。光線と色彩との戯れを現わすらしいそのひだのくま取りは同様に肢体のふくらみを描いて遺憾がない。大きな肩を覆うときにはやや堅く、二の腕にまとうときには細やかに、膝においては特に柔らかい緊張を見せて、その包む肉体の感触を生かしている。~略~説法の印を結ぶ両手の美しさに至っては、さらに驚くべきものがある。現在の状態では、ここにもくま取りがあったかどうかはわからないが、とにかく輪郭の線は完全に残っていて、それが心憎いばかりに巧妙に『手』を現わしている。~略~この弥陀の光背も実にすばらしい。体から放射して体の周囲に浮動している光の感じが実によく出ていると思う。しかもそれが霊光であって、感覚を刺戟する光でないことが描き出されている。だからこの光はきわめて透明に、静かに、背後の物象を覆うことなく、仏の体を取り巻いている。これこそ光背の最初の意味を生かせているのである。~略~脇侍を個々に観察すると、その魅力はまた本尊以上に強い。本尊が男性的な印象を与えるに反してこれは女性的であるが、しかしその女らしさを通じて現われている清浄さは本尊に劣らない。」本論を所々ピックアップしてみても著者の感動が伝わってくる文章で、毎度のことながら著者の観察眼には驚きます。「古寺巡礼」は大正8年著者が30歳の時に岩波書店から出版され、昭和21年に改訂版が出ているようです。ということはここで著者が見た「法隆寺金堂壁画弥陀浄土図」はオリジナルで、著者は幸運にも焼損前の金堂壁画に接して、この感想をまとめていたことになります。「法隆寺金堂壁画弥陀浄土図」は昭和24年の火災で焼損していて、その事情については後日NOTE(ブログ)に記したいと思います。