Yutaka Aihara.com相原裕ウェブギャラリー

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「反宗教改革と美術 」について
「カラヴァッジョ」(宮下規久朗著 名古屋大学出版会)の第2章「1600年前後のローマ画壇とカラヴァッジョ」の中の「1 反宗教改革と美術 」の気になった箇所を取り上げます。「16世紀後半のローマ美術は後期マニエリスムを中心として諸派が混交し、画壇の有効なパノラマを示すことは困難である。美術史的には反宗教改革(対抗宗教改革、カトリック改革)の性格を反映したマニエリスムからバロックへの『移行期』とよんでよいだろう。~略~プロテスタントが聖書と信仰のみによる合理的な神の理解を訴えたのに対し、カトリックは視覚イメージによって聖書の言葉をより近づきやすくし、理性よりも感情に訴えて信仰心を昂揚させようとした。」私自身はこの時代の西欧美術に疎く、ましてや宗教画史をきちんと学習していなかったために、当時の生々しい表現を避けてしまう傾向があります。「生誕や復活、奇蹟は喜ばしく、受難や殉教は痛々しく表現されねばならず、信者はそれらを通して実際の場面をまざまざと思い浮かべることができたのである。~略~『笞打ちと唾、殴打と血で変わり果てた十字架上のキリスト、拷問で肉を削り取られた聖ブラシウス、矢で体を覆われ針鼠のようになった聖セバスティアヌス、焼き網で焼かれ肉が変形した聖ラウテンティウス』。こうした美術を典型的に示すものとして、主にイエズス会の教会でさかんに制作された『殉教図サイクル』がある。新教国や新大陸、アジアやアフリカに精力的に布教したイエズス会は多くの殉教者を出したが、これが初期キリスト教時代の殉教聖人の顕彰と重ねられて、殉教という主題を流行させた。ちなみにわが国でも禁教下に多くの殉教を生ぜしめたが、長崎26聖人の殉教図は、~略~おそらく日本人画家が現実の凄惨な事件に接して描いたであろう《元和大殉教図》など3点の殉教図がイエズス会の総本山イル・ジェズ聖堂に保存されている。~略~殉教図サイクルに見られる残虐描写を発展させ、より迫真的に生々しく描いて観者の恐怖心や戦慄を煽ることは、後にカラヴァッジョやリベラをはじめとするその後継者が行ったことにほかならない。」今回はここまでにします。