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「速やかな回心」について
「カラヴァッジョ」(宮下規久朗著 名古屋大学出版会)は今日から「第3章 回心の光」に入ります。最初の単元「1 速やかな回心」の気になった箇所を取り上げます。「ローマでは、プロテスタントやユダヤ人を改宗させる運動がさかんであったが、それは時の教皇クレメンス八世(在位1592-1605)の中心的な政策であった。」カラヴァッジョの宗教画群の劈頭を飾る傑作が生みだされていきます。「《聖マタイの召命》は、収税所にいた微税吏であったレビ(後のマタイ)のもとにキリストが現われ、『私に従いなさい』と言った瞬間を描いたものである。~略~この作品《聖マタイの殉教》は、エチオピア王ヒルタクスの再婚に反対したマタイが、王の放った刺客によって聖堂内の祭壇の前で殺される場面を描いたものである。~略~カラヴァッジョは作品が実際に設置される空間を考慮し、そこで作品の与える効果を計算しつつ光の効果や画面構成を表現するのが常であった。この作品でも、礼拝堂に入った 観者のもっとも近くにマタイを置き、そこから召命・霊感・殉教へと展開させる流れを作り出したのではないだろうか。」単元最後の文章にまとめがありました。「改宗あるいは回心は、当時の反宗教改革にとって重要な関心事であった。《聖マタイの召命》が描かれたサン・ルイジ・デイ・フランチェージ聖堂はローマにいるフランス人の教会であり、聖堂内のコンタレッリ礼拝堂にイタリアではあまり前例のないこの主題が選ばれたのも、(前述の)アンリ四世のカトリック改宗と関係するものと思われる。また、《聖マタイの召命》の向かい側に描かれた《聖マタイの殉教》で、画面下部に大きな洗礼槽が見えるのは、当時教会が積極的に推進していた改宗政策と無縁ではない。いわば改宗は、政策上でも美術の上でも時代の流行であったのである。こうした気運を反映したカラヴァッジョの宗教画に、改宗・回心の奇蹟に現実性と臨場感を与える表現が見られるのは不自然ではない。」今回はここまでにします。