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「溶ける魚」1~4について
「シュルレアリスム宣言・溶ける魚」(アンドレ・ブルトン著 巖谷國士訳 岩波書店)の「溶ける魚」の1から4までの単元の中で、気に留めた詩文をピックアップいたします。まず単元1の冒頭です。「公園はその時刻、魔法の泉の上にブロンドの両手をひろげていた。意味のない城がひとつ、地表をうろついていた。神のそば近く、その城のノートは、影法師と羽毛のアイリスをえがくデッサンのところでひらかれていた。」「この14世紀の城の窓辺で、ひとりの女が歌っている。彼女の夢のなかには黒い胡桃の木々がある。だれなのかまだわからない、なぜなら、あの幽霊はあたりに上天気をつくりすぎているからだ。とつぜん夜がやってきて、まるで大きな薔薇窓の花模様が頭上でくつがえったかのようだ。」「時をへたいまでは、もうはっきりと見えてこない、これはちょうど、私の生の劇場と私自身とのあいだに、ひとつの滝がかかっているかのようで、しかも、私はその劇場の立役者ではない。なにやらいとおしい羽音が私につきまとっていて、道すがらの草はみな黄ばんでしまう、そればかりか、折れくちてしまう。」単元2に進みます。「Aに行こうか、Bに引きかえそうか、Xで乗りかえようか?そうです、もちろんXで乗りかえよう。倦怠との連絡に遅れなければいいのだが!さあついた、倦怠だ、美しい平行線の数々だ、ああ!これらの平行線は、神の垂直線の下で、なんと美しいことだろう。」単元3に進みます。「この昆虫のぶんぶんうなる羽音は、肺鬱血かなにかのようにがまんのならないもので、そのとき、とんぼをポールの先につけた路面電車の騒音をかきけすほどだった。雀蜂はおそらく皮肉まじりの驚きをあらわそうとしたのだろう、まじまじと私を見つめてから、こんどは近よってきて、耳もとでこういった、『また来るわね』と。」単元4に進みます。「鳥たちは色彩を失ってから形を失う。それらはいかにも実のない蜘蛛の巣のような存在になっているので、私は手袋を遠くへ投げる。黒いステッチのある私の黄いろい手袋は、くずれかけた鐘楼に見おろされた平原の上におちる。」今回は以上になりますが、シュルレアリスムの自動記述で書かれたものでも、決して支離滅裂な語彙の寄せ集めではなく、ブルトンのイメージするものに裏打ちされたものになっているような気がしています。