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「ジョージ・グロッス ベルリン・ダダイストの軌跡」読後感
「ジョージ・グロッスーベルリン・ダダイストの軌跡ー」(宇佐美幸彦著 関西大学出版部)を読んで感じたことは、政治的主張をもって人々を喚起させる手段に芸術がなり得たことです。時代のニーズもあったのだろうと推察していますが、反戦を掲げて共産主義に歩み寄った画家は、ただし、そのコンセプトで首尾一貫することはなく、主義主張に生涯囚われることはなかったようです。グロッスはヒトラー台頭前に渡米し、アメリカでは過去を清算しようと努めますが、不成功に終わりました。幼少より憧れたアメリカで、酒に溺れた貧困な生活を送ったグロッスは芸術のコンセプトをも薄らいでいきました。晩年ドイツに戻っても安定した余生を夢見ていたため、かつての社会的なテーマを扱った斬新な表現はなくなっていました。では、グロッスが輝いていた頃はいつだったのでしょうか。世相に眼を向け、辛辣な風刺を絵画化し、絵画や詩の出版を繰り返していた時代こそ、グロッスが一世を風靡し面目躍如とした時代です。そうしたグロッスの世界は、ナチスによって「退廃芸術」という烙印を押され、多くの作品が失われました。もし、グロッスが渡米をしなかったら、ヒトラー政権によってグロッスは抹殺されていたかもしれません。渡米という選択肢がよかったのかどうか神のみぞ知るところですが、時代とともに生きた画家は、運命に翻弄されながら人間臭い世界を漂っていたように思えます。