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映画「この世界の片隅に」雑感
今年になって立て続けにアニメーション映画を観ました。「この世界の片隅に」は戦前から戦中にいたる広島市内や軍港のある呉で暮らした女性の半生を描いた秀作でした。私の心を捉えたのは背景になっていた風景描写で、戦前の広島の町並みの再現にどのくらいの労力が費やされたのか、計り知れないものを感じました。物語は昭和8年広島市江波の海辺に住む8歳の主人公すずの生活描写から始まります。絵の大好きな少女すずのエピソードや家族との接触も丁寧に描かれていて、平穏な雰囲気が伝わりました。18歳になったすずに縁談が持ち上がり、呉に嫁入りすることになり、海軍勤務の優しい夫や姑に囲まれて、すずは持ち前の明るさとのんびりした気質で生き生きと生活をしていくのです。気性の強い未亡人の義姉に翻弄されながら、それでも嫁ぎ先の家族全員に支えられていたすずでしたが、戦争が本格化して物資が不足する毎日を何とかやり繰りしながらやっていた矢先、爆弾で義姉の娘と自分の右腕を失い、過酷になっていく世相と向かい合いながら、映画は生きていく実感を私たちに語りかけてきます。原爆の描写は呉の遠い山が光り、その直後に新型爆弾が広島市内に投下されたというラジオ放送によって知る設定にしていました。戦争を大げさに描くのではなく、日常の中で伝わるものの方が、余程戦争の愚かさや恐怖を表現できるものではないかと改めて感じた次第です。片渕須直監督の熱意と声優を務めた女優のんに負うところが多いと感じつつ、地味ながら深い感動があった映画でした。