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映画「人生タクシー」雑感
先日、常連になっている橫浜市中区のミニシアターにイラン映画「人生タクシー」を観にいきました。芸術表現を抑制されている国にいて、自由闊達にカメラを回すジャファル・パナヒ監督。監督自らタクシーの運転手に扮し、乗り合わせた客から様々な呟きを引き出し、現在の社会情勢を微妙な風刺で彩る映画の手法は、語る人物によって面白くおかしい台詞が満載でした。社会的な矛盾を孕んだ現状を露見させたこの映画を、彼の地の政治家はどう見ていたのでしょうか。案の定、映画は国内での上映禁止の憂き目に遭い、何かの手段を使って海外に持ち出して、名のある国際映画祭で賞を獲得するに至った事実を知ると、権力による抑圧がパナヒ・ワールドを培ったとも言えます。これは「人生タクシー」に限ったことではなく、パナヒ監督のあらゆる映画がヴェネチアやカンヌ、ベルリンの国際映画祭で評価されているのは、芸術表現を誰も阻むことが出来ないことを如実に物語っているように思います。テヘランの市街は一見自由に見えるのに、「俗悪なリアリズムってどういうこと?現実を撮りなさいと教えといて、暗くてイヤな現実は見せちゃダメ、って意味判んない。」と監督の姪っ子がタクシーの中で、学校で出された映像の課題について吐露する気持は、現実の社会に投影されていて、私たちは映画の中の彼女の姿に一気に引き込まれていったのでした。