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映画「わたしはダニエル・ブレイク」雑感
先日、橫浜市中区にあるミニシアターに映画「わたしはダニエル・ブレイク」を観に行きました。イギリスの名匠ケン・ローチ監督が描く社会派映画で、本作は労働者や移民の人々など弱者に寄り添い、懸命に生きる庶民の姿を通して、現代社会にメッセージを送り続ける優れた作品だと思いました。貧困や飢餓問題は世界中どこにも存在し、行政のシステムから零れ落ちる人々が日本にもいます。行政側の杓子定規が通用しない微妙で緊急な課題です。映画の主人公は元建具大工の初老ダニエル・ブレイク。仕事中に心臓発作を起こし、医者から労働は不可能とされています。ところが支給金を審査する行政は、マニュアル通りの審査でダニエルを切り捨てます。そんな自己問題を抱えるダニエルの前に、さらに惨めな若い母子が登場します。ダニエルは自らを省みず若い母親と2人の子を助けますが、社会的な扱いに憤りを覚えることが暫しあり、運に見放されて翻弄される人々が直面する問題を、映画は浮き彫りにしていきます。ケン・ローチ監督が描く世界を見ていると、現実路線をいく映画は、改めて人間の尊厳や権利を主張し、人間が人間らしく生きていくにはどうすべきかを観客に問いかけてくるようです。幻想で気持ちの高揚を狙う映画もあるけれども、こうした主張を持つ映画に私は共感を覚えてしまいます。家内も最近になって介護書類のことで区役所の窓口で憤りを覚えたことがあったので、この映画は彼女の感情の機微に触れるものがあり、私以上に共感をしていました。無駄のない脚本、それだけにシンプルで強く訴える要素を持ち、控えた色彩の映像が内容を饒舌に語る本作は、カンヌ映画祭で賞に輝いたのも頷けると思いました。