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映画「残像」雑感
ポーランドを代表する映画監督アンジェイ・ワイダが昨年10月に亡くなり、遺作「残像」が上映されました。東京の岩波ホールでは既に上映が終わりましたが、横浜のミニシアターはこれから上映する予定になっています。映画では実在した前衛画家ストゥシェミンスキを主人公にしていますが、ワイダ監督自身もクラクフ美術大学を中退し、ウッチ映画大学に転学したことがあり、当時美大を席巻した社会主義的リアリズムを拒んだ経緯があるようです。ストゥシェミンスキは、自国ポーランドがソビエト連邦の勢力圏に組み込まれ、一党独裁体制が確立される中で、死に至る最後まで自由を求め抵抗し続けた画家でした。ストゥシェミンスキは革新的な造形理論でも国際的に評価されていて、ウッチ美術館や造形大学の創設にも関わった実力者だったようですが、政治によって葬り去られた画家でした。私もその名を聞いたことがなかったので、現代美術史の中では忘れられた存在なのでしょう。映画では芸術家としての英雄像を描くことがなく、寧ろ次第に社会的にも経済的にも追い込まれていく人間を描き出しています。映画のあらゆる細かな場面にも全体主義国家の危うさが描かれていて、その対岸にある前衛芸術との狭間が埋められることなく映画は終わります。観ている私たちに強烈なメッセージを残して…。ワイダ監督自身の生涯揺らぐことがなかったたったひとつの主張が心に残りました。「残像」とはストゥシェミンスキの絵画の題名から取っているようですが、映画全体の印象が残像として刻まれたように私には思えました。