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映画「ジョーカー」雑感
昨日、横浜市都筑区鴨居にあるエンターティメント系の映画館にアメリカ映画「ジョーカー」を観に行きました。ヴェネツィア国際映画祭金獅子賞という話題もありましたが、何よりも衝撃的だったのは、アメリカ本国から伝えられた映画館周辺で警察が待機したというニュースでした。映画に共感した観客が犯罪に走るのではないかという不安は、映画を観ていて成程と思いました。舞台はゴッサム・シティという架空都市で、そこでは街が腐臭を放ち、貧富の差は拡大し、困窮者が暴力に手を染めていました。世界にそんな街が存在することは想像に難くないと思いました。主人公の道化師アーサー・フレック(ジョーカー)は、緊張すると笑いの発作が出る脳損傷があり、それでもコメディアンになる夢を捨てきれず、ピエロ派遣会社で仕事をしながら、その機会を狙っていました。同居の母親は心臓と精神を病んでいて、その介護もアーサーがやっていました。そこに出生に関わるさまざまな悲劇がアーサーを襲い、自分が養子であること、母の交際相手に虐待されて脳に損傷を負ってしまったこと等、動揺を抑えられない彼は入院中の母を窒息死させてしまいました。道化師の扮装のまま地下鉄に乗った彼は、さらに高慢な3人のビジネスマンに対して銃を発砲したのでした。街では富裕層を責めるデモが、3人を殺したピエロを英雄視して、一触即発の事態になっていました。いよいよアーサーがジョーカーになる動機や環境が整い、混乱した街の中で究極の愉快犯とも言うべき悪役が誕生したのでした。この映画の魅力は主役を演じたホアキン・フェニックスで、法を遵守する心優しい男が度々馬鹿を見て、その累加の上に法外の存在になっていく過程を見事に演じていたのではないかと思いました。監督のトッド・フィリップスの言葉に「この映画には、何もかも剥き出しにすることを恐れず、役柄に肉体と魂を捧げられる俳優が必要でした。」とあります。まさに主人公の身辺に起こる事柄がリアルと感じてしまうのは、俳優が役柄に真摯に向き合う力だと思います。映画には、近い将来バッドマンになるブルース・ウェインが子役で登場し、大富豪で実業家だった父と母がデモ隊のひとりに、ブルースの目の前で殺されてしまう場面がありました。アメリカンコミックの原作を所々辿りながら、荒唐無稽な闇のヒーローがどのようにして登場したのか、まさに勧善懲悪では伝えられない現代の問題を掘り下げていく内容を盛り込んだ映画だったと振り返っています。