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「アフタヌーン・インタヴューズ」・Ⅰについて
「アフタヌーン・インタヴューズ」(マルセル・デュシャン カルヴィン・トムキンズ聞き手 中野勉訳 河出書房新社)・Ⅰのまとめを行います。現代アートに大きな影響を与えた巨人マルセル・デュシャンへのインタビューで語られているのは、突飛な発想ではなく、寧ろアートを特別視しないデュシャンの自然な考え方でした。私が興味を感じた箇所を書き抜いてみます。聞き手のC・トムキンズの「新しいアート活動がこれだけ起きているというのは、或る意味で健康なしるしなのでは?」という問いかけに、「そういう面はある、社会という観点から考えるんならね。ただ、美学の観点からすればたいへん有害だと思います。わたしの意見では、こんなに生産が活発になっては、凡庸な結果しか出てこない。あんまり繊細な作品を仕上げる時間的余裕がない。生産のペースが猛烈に速くなってしまったんで、また別の競争になるわけだ。」またこんなことも言っています。「20世紀が装飾的だとは、わたしはぜんぜん思わない。ただ、アートのつくり方において、まるで耐久性がない。アートの生産に用いられている手段がたいへん傷みやすい。粗悪な顔料を使っている。わたしらみんなそうしていた。わたし自身そうしていたんだ。だから短期間のうちに、そういう生産物は消滅するだろう。~略~その瞬間のためのアート、未来にも過去にもお構いなしのアート。わたしの思うに、それが20世紀全体の特徴だったんじゃあないか、フォーヴ以降ね。」インタビューが前後しますが、そんなアートの世界で天才は現れるのだろうか、ということにもデュシャンは意見を述べています。「締めくくりにわたしは、アートの方面では、未来の偉人というのは目に見えない、見えるべきではない、地下に潜行すべきだ、と言った。ちょっとでもツキがあれば、死んだあとに認められるかもしらんが、まるきり認められないかもしらん。地下に潜行するというのは、社会とカネの取引をしなくてもいいという意味です。そういう人は統合なんぞいさぎよしとしないはずだ。地下がどうのというのはたいへん興味深い話で、いま現在、天才アーティストってのもいるかもしらんが、まわりをカネの海に囲まれて、そのせいでダメになったり汚染されたりしてるんなら、才能は完全に溶解してゼロになってしまうからね。」こんなところが私には気になりました。