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「Ⅲ 劇場とダンスについて」のまとめ
「イサム・ノグチ エッセイ」(イサム・ノグチ著 北代美和子訳 みすず書房)の「Ⅲ 劇場とダンスについて」のまとめを行います。ノグチの幅広い表現分野の中で、ノグチの空間解釈を具現化した極めて重要な方法が舞台美術でした。舞踏家マーサ・グレアムの舞台装置は、画期的で特筆に値するものでした。舞踏だけでなく演劇にもそうしたノグチの考え方が表れていました。「真空は存在しえないという単純な理由から真空が回答ではないのは明白である。劇のニュアンスすべてを明確にするほどに、論理としてはきわめて透明ななにかがそこになければならない。ある意味で、このなにかは裸の舞台よりもなおいっそう大きな空隙を創出することによって、無そのものよりもなおいっそう無でなければならない。それは空間を期待という一種の魔法で満たさなければならないのである。」舞台に対する空間解釈は無から始まるとノグチは主張していて、続くマーサ・グレアムとのコラボレーションに関するインタビューでも同じことが述べられていました。「思うに、ぼくらは感情がチャージされた空間をもつダンス・シアターを見つけなければならなかった。その空間とはもちろん彫刻だ。空間の彫刻だ。マーサはその彫刻的空間のなかを動きまわる。マーサの関心が絵画よりも空間にあったと言うのは正しい。絵画とは実体の模倣だ。彫刻は実体そのものだ。ぼくは彫刻を空間に広がり、それを満たすものと考えている。」ノグチにとって舞台美術は空間彫刻として存在していたと考えていたようで、所謂舞台背景として絵画的に描かれた舞台装置ではなかったのでした。私も学生時代、それはまだノグチの考え方を知る前だったのですが、舞台装置として彫刻が観客に提示できたらいいなぁと考えていた時期がありました。当時はアンダーグランド劇が盛り上がりを見せていた頃で、前衛劇に魅せられていた私は、演じられる心理的なドラマに象徴的な形態を加えたら、さらに深淵な表現世界が出現するのではないかと夢想していました。「Ⅲ 劇場とダンスについて」はまさにその具体が示されていて、私は感じ入ってしまいました。