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町田の「西洋の木版画」展
先日、東京都町田市にある町田市立国際版画美術館で開催中の「西洋の木版画」展に行ってきました。私は学生時代に彫刻を専攻しながら、興味関心をもって試してきた技法が木版画でした。ドイツ表現派のざっくりとした力強く象徴的な世界が念頭にあって、私もモノクロ版画に拘ってきました。本展で改めて古い時代からの西洋の木版画に接して、版のもつ魅力をもう一度確認しました。西洋で木版画が作られるようになったのは、紙が漉かれるようになった13世紀後半から1世紀を経て、14世紀後半に漸く始まったようです。最初の題材はキリストやマリアの聖像で巡礼者向けに販売されていました。15世紀末にA・デューラーの登場にとって飛躍的に木版技術と表現が進みましたが、16世紀には細密な表現が可能な銅版画に中心が移り、木版画は民衆的な刷り物にわずかな命脈を保つばかりになったようです。18世紀にイギリスで木口木版画の技法が確立されて、銅版画のように細かな線描が可能で、しかも活字印刷と同時に刷ることができたため、専門の職人が活躍しました。また木版画が美術表現として見直されるのは1880年代末のことで、その契機になったのは日本の浮世絵版画でした。印象派の画家たちの間で、浮世絵の斬新な画面構成が流行したのはあまりにも有名で、少なからず日本が西洋近代絵画に影響を与えたのは事実です。本展で私が注目したのは近代から現代に至るアーティストによる版画表現です。私にとってお馴染みのドイツ表現派のキルヒナーや後期印象派のゴーギャン、抽象絵画のカンディンスキー、抽象彫刻のアルプなどの版画作品を見ていると、私は20代から休止している版画表現をもう一度やってみたい衝動に駆られます。とりわけ本展出品者の中で唯一の知り合いである故日和崎尊夫氏の木口木版画「KALPA」シリーズを見ていると、木版画をやっていた当時を思い出し、まだ自己表現が熟さないうちに技法を投げ出してしまった自分を恥じました。来年3月で公務員の仕事を退職する私は、彫刻の他に版画をやろうと決めています。実は木版画ではなく、その時は銅版画を試したいと思っているのです。