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「マグマを宿した彫刻家」雑感
昨晩、NHK番組「日曜美術館」で取上げられた故辻晋堂の陶彫について書いてみようと思います。表題にある「マグマを宿した彫刻家」とは、大学時代に辻晋堂に師事した彫刻家外尾悦郎氏が言っていた台詞でした。眼に見えないけれど内面に秘めた師匠のマグマのような強さを感じ取り、外尾氏がスペインに行ってサグラダファミリア贖罪教会の制作に携わった場面で、周囲から理解されない状況に陥った時に、師匠の創作にかける姿勢を思い出していたそうです。40年以上に及ぶ外尾氏の制作活動は、師匠からの心の支えがあればこそ達した境地なのかもしれません。そうした国際的な力量を勝ち得た彫刻家を輩出した辻晋堂とはどんな人物だったのか、私には興味が尽きません。私も学生時代に東京銀座のギャラリーせいほうで個展をやっていた辻晋堂のことは知っていました。その頃、出品していた小さな陶彫作品は彼の晩年の作品と呼べるもので、本人曰く「粘土細工」という言い方に妙な感じが残りました。それでも当時の代表作「捨得」と「寒山」を見ると、飄々とした軽妙洒脱な作りが何とも不思議な雰囲気を漂わせていました。元々巧みな彫刻家なのだろうなぁと私は思いつつ、10年くらい前に鎌倉の美術館で見た大ぶりな陶彫作品には驚きました。「東山にて」という平面性の強い陶彫作品は壁体彫刻とでも呼べばいいのか、まるで古代人の住居を連想させるもので、陶彫の魅力を全面に押し出していました。私が学生の頃は、粘土を焼成するとこんな感じになるのかとの単純な印象しか持てませんでしたが、鎌倉の美術館での展覧会は、私が既に陶彫を始めていたので、忽ち辻ワールドに取り込まれてしまい、土でなければならないイメージ世界に思いを馳せてしまいました。私は地中海沿岸の発掘された都市を出土品のような土で表現したかったため、そこで自分なりの陶彫を展開していく方向性を掴んだと言っても過言ではありません。