Yutaka Aihara.com相原裕ウェブギャラリー

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東京丸の内の「藤戸竹喜」展
先日、東京駅丸の内にある東京ステーションギャラリーで開催されている「藤戸竹喜」展を見に行ってきました。副題に「木彫り熊の申し子」とある通り、木彫では超絶技巧を持った作家の長年にわたる作品の数々が展示されて、圧倒的な迫力と表現力に時の経つのを忘れました。北海道では熊の木彫が民芸品として売られていますが、藤戸ワールドを見て分かったことは、木材の生かし方、形態把握の凄み、生活の中にいる動物たちに対する深い愛情が滲み出ていたことで、それを確かな技能が支えていました。まさに写実的ではあるけれど実写ではない彫刻がそこにありました。久しぶりに心が揺さぶられる具象彫刻を見た気がしました。私は作家の背景がどうしても知りたくなって図録を購入しました。「熊は、カムイのなかでも最高位のキムンカムイだ。木彫り熊とは、カムイを彫ることにほかならず、カムイである熊のことを誰よりも知っているのは、アイヌである自分たちである。だから自分たちは、自分たちにしか彫れない熊を世に出すことができる。そういうプライドを熊彫りたちはもっていたのだ。『アイヌであればこそ熊を知り、アイヌだからこそ彫り上がりに何かがあるのだ』と言う父、竹夫の言葉そのままに、藤戸さんは、熊彫りたちの大いなる誇りを受け継いだのである。」(五十嵐聡美著)次に私の目が釘付けにされた彫刻は人物像でした。題名は「フクロウ祭り ヤイタンキエカシ像」で、アイヌ民族の儀礼のひとつである「フクロウ送り」を基にして彫られたほぼ原寸大の人物像でした。頭部から足まで一木作りで両腕は別々に彫られて胴体に取り付けられていました。その装飾はフクロウの冠を頭に被り、腕には大きな翼があり、衣装はアイヌ伝統の文様を浮き彫りしたもので、神々しい雰囲気に満ちていました。「樹霊観音像」も彫ったことのある木彫家なので、動物だけではなく人物にも魂を入れることができるのだろうと思いましたが、木と共に84年の生涯を全うした人に、改めて敬意を送りたいと思います。