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平塚の「物語る 遠藤彰子展」
昨日、平塚市美術館で開催している「物語る 遠藤彰子展」に行って来ました。画家遠藤彰子氏には500号以上の大作が30点ほどあり、それだけでも破天荒なスケールを持った画家と言うことができます。絵はいずれも具象絵画ですが、決して写実的ではなく、夥しい数の人物や動植物が絡み合い、それらが渦巻きあっている動勢があり、画面全体から受ける吸引力に、鑑賞しているこちら側が吸い込まれてしまいそうな凄みを感じます。私が遠藤ワールドを最初に見たのは「街シリーズ」で、構築された都市空間を湾曲させた画面に魅力を感じていました。私の「発掘シリーズ」と何か通じるものを感じましたが、遠藤ワールドはその後次第に大作になっていき、展覧会の表題の通り「物語る」要素が詰め込まれた中世西洋絵画の雰囲気が現れています。もちろん宗教絵画ではなく幻想世界が広がる現代社会がテーマになっていますが、嘗て「古くささの新しさ」と評された所以はこんなところにあるのでしょう。遠藤ワールドを評するのに美術ジャーナリストの森山明子氏は「一作一冊」という方法を取りました。現在3冊が発刊されており、今回の展示で私も感銘を受けた「鐘」という大作を論じた一冊から文章を引用させていただきます。まずは画家の言葉です。「私の絵は、どちらかというと〈読む絵〉の意味が強いと思います。と同時に、絵というのは具象を描きながらも、いかに抽象性を感じさせるかということが重要です。~略~画面の動きの気配をたえず発生させていること。大きく単純化した構成が望ましい。描かれた物事の律動感の必要性。変容が画面の主要素。特定の描かれた人や物が見る者の眼を連続的に円状に誘導する。」次に著書を出した森山明子氏の論考です。「遠藤は現代具象画の旗手ですが、超絶技巧による写実を誇ることはなく、抽象の大切さを強調してきました。その抽象はいわゆる『アブストラクト・アート』に限定されません。一例を挙げるなら、岸田劉生の有名な『二人麗子図』(1922)について、『古典絵画を手がかりに、写実を超え、現実を超えた空間を生み出した、この一作に羨望を覚える』と言うのです。~略~根源的な生命感、精神に宿る怪物、強靭な理性ー抽象性、つまりは具象を超えた普遍性を獲得するための驚くべき要素です。それらは、朝になると近所の養鶏場に通って何百羽もの鶏が餌をついばむ様子を観察した若き日の遠藤の実体験あってのことでしょう。抽象と生の実感とは遠藤の絵においては対立しないのです。」