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「日本中世の能面について」のまとめ
「仮面ーそのパワーとメッセージ」(佐原真監修 勝又洋子編 里文出版)の「日本中世の能面について」をまとめます。「現在はまったく芸術性のみで評価されているが、芸術性の高い、そして能楽の芸術性の大きな部分を占める能面には長い仮面史の前史があり、神の依代としてのそれであった。」と冒頭の文章があり、近江と美濃の境の山奥にある甲津原には古い能面が祭られているようです。「甲津原の天満神社には、現在も十面の能面と二つの鼓の胴が残されており、出すと雨が降るという言い伝えがあった。」雨乞いの面は佐渡を初め、各地に残っています。「雨乞いの鬼面で思い合わされるのは、阿波祖谷山の奥の『神代踊り』である。私も十年ほど前に見に行ったが、竹で叩く大太鼓の三つの音を伴奏に、まずは天狗様の先達の男に続き、大わらじを付けた若い男の跳躍乱舞、女や女児の花笠踊り、男の子の筑子踊りと実に多彩であった。この先達の天狗が着けている面が悪尉系のものである。」降り面伝説の話にも興味が湧きました。「近江では敏満寺の座がもっとも古い由緒のある座となっているが、その娘と結婚した伜侍(武士に仕える卑しい従者)であった山科座(山階座)の始祖の伝説である。彼が申楽師になるかどうかを山科の明神(春日神)に祈っていると、烏が社檀の上から翁面を落としたので、これは神慮だと思い、決心をつけて申楽師になり、その子供たち三人が、近江の上三座といわれた山階・下坂・比叡となったというのである。」またこんな記述もありました。「能面にまつわる伝説は、『翁面』にとどまらず、悪尉系の面にもある。演能に用いない鬼神系の面を悪霊退散や雨乞いのために用いたことは既にのべたが、それが能面にも波及したものであろう。」能楽について述べた箇所にも注目しました。「ところで能楽は、もちろん女猿楽もあったが、男が女面をつけることによって、若い女から老女まで演じる事ができるところに独自性を発揮した。能楽の芸術としての真髄は鬘物といわれる女物にあるとまでいわれる。~略~着面ということによって、男が若い女の面を着て、鬘物を演じるように、一人の役者が、老若男女を演じることができた。いわば、身体的限界を乗り越え、面の効力によって越境する事が出来たのである。そればかりではなく、人間界を超越して、霊的な存在に成り代わることができた。否、まずは面を着けることによって超人間的な存在である神や鬼神の示現として、成り代わることができた猿楽師は、次にこの世の現実の人々、そしてその人々の幽霊、さらに動物・植物の霊にまで、そのレパートリーを増やしていったのである。」(引用は全て脇田晴子著)