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「漂泊する仮面」のまとめ&読後感
「九州の民俗仮面」(高見剛 写真・高見乾司 文 鉱脈社)の「漂泊する仮面」をまとめます。この章が本書最終章になります。「流出した仮面の里帰りに関わった事例は数例ある。その方法は、寄託、奉納、相応の金額による売却など、種々の方法によったが、それはそれでよいと思っている。さまざまな事情によって流出し、漂泊を続けていた仮面が、ひとたびは空想の森美術館の所蔵になったが、またなんらかの方法によってもとの場所へと収まるのであれば、それは仮面たちにとってもっとも安らかな帰着の仕方であろうと私は考えているのだ。」仮面のもつ伝承や背景を考えれば、収まるところに収まるのが最善の方法だと私も考えます。ただし、地方の寺社や村の自治会館に比べ、美術館では室温等が完璧に管理されていて、古いものを保存するなら美術館も有りではないかと私は思うのです。若い頃、私は九州を車で巡った経験があり、その時に立ち寄った由布院空想の森美術館の白い壁に展示されていた民俗仮面に衝撃を受けたことを思い出します。仮面は祭礼に使うものと思っていた私は、まさにアートとしての仮面の造形に原初的なパワーを感じ、ヨーロッパでシュルレアリストたちが収集していた仮面の意味を知ったのでした。私も自らの造形力を高める原初的な仮面の収集を始めていましたが、そこに拍車がかかりました。私に民俗的な思考を与えてくれたのは、仮面に関する研究書で、その後アジア各地を旅行した時も、そんな仮面の背景を考えるようになりました。本書もそれに類する書籍だと考えます。最後にアジア全体を俯瞰する文章がありましたので、引用いたします。「アジアには、インドからミャンマー、タイ、ラオス、インドネシアの一部にまたがるヒンドゥー神話系の仮面文化、ネパール、ブータンから中国西南部のチベット自治区を中心とする地域に分布するチベット密教系の仮面文化、そして中国大陸を中心とした地域の『儺戯』と『獅子』の文化、さらにバリ島などインドネシア諸島の土俗性のつよい仮面文化、そして日本の『神楽』『能・狂言』の仮面文化などが分布する。目を転じれば、はるか西域の仮面文化ともシルクロードを通じた交流がある。アジアの仮面文化は、地域・時空を越えた壮大な連環をみせるのである。~略~アジアの仮面文化の根底をなす思想は、天と地、死と再生、聖と魔などが円環し、輪廻する宇宙観である。天地創造神話、宗教説話、民族の起源伝承などが、宇宙的規模で語られ、アジア全域に通底する膨大深遠な底流となって、神事や神話的演劇・芸能となって伝承されてきたのである。」