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「ウィーン工房・序論」のまとめ
「ウィーン工房」(角田朋子著 彩流社)は序論に続く第1章から第7章までの内容があり、最後に結論があります。まず今回は序論をまとめます。オーストリアのデザイン史の導入として「従来ドイツ語圏の近代デザイン史はバウハウスに代表される合理主義的デザイン研究を主流とする一方、オーストリアに関しては『世紀末ウィーン』の芸術・文化研究に留まっていた。本研究ではウィーン工房のデザイン活動に見られる今日的な『イメージ』、『ブランド』、『消費』といった要素に着眼し、バウハウスに代表される理知的なモダン・デザインとは異なる、企業が主導的地位にあったウィーンの近代デザインの実践の意義を探る。」とありました。ここで幾つかの視点が述べられていましたが、私が注目したのはそこで使われた用語です。「ウィーン工房のデザイナーは、生産品を通じて市場や経済の問題にも対峙した。こうした企業としての側面はウィーン工房の重要な特徴の一つであることから、本研究では、初期のヨーゼフ・ホフマン、コロマン・モーザーによる1点ものの家具のように、明らかに芸術性の高い作品を除き、ウィーン工房の生産品を原則として『製品』または『商品』と記す。また、それらの生産には『制作』ではなく『製作』を用いる。」ウィーン工房は慢性的な経営難にも遭遇していたようで、こんな文章もありました。「デザイン運動への貢献の一方、度重なる経営危機が企業方針とデザイン様式の変化を導いた点は、今日的なデザイン企業に通底する性格を示している。経営難にもかかわらず、モダニズム全盛期の1930年代初頭まで製品の個性的な芸術性と経済性の両立を試みた姿勢は注目に値する。」様式としての呼び名に関する文章もありました。「1900年頃、ドイツ語圏ではユーゲントシュティールと呼ばれる装飾様式がヨーロッパの諸都市で流行した。曲線を多用した奔放な表現が特徴の一つであったが、ウィーン工房の場合、初期はホフマンとモーザーによる抑制的な幾何学的ユーゲントシュティールで知られた。」序論のまとめとして「本書を通じて、ウィーン工房が、ウィーンの文化的蓄積と同時代の芸術、政治、経済、社会のさまざまな現象と結びつき、首都と国家の表象を形成するに至ったことが明らかになる。ウィーン工房を中心としたオーストリアの近代デザイン運動は、芸術的理想だけではなく、デザインという行為やモノに付随する商業性、政治性によって貫かれていた。」とあり、その具体的な事象を次の第1章から第7章までの内容で扱っているようです。