Yutaka Aihara.com相原裕ウェブギャラリー

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「ロマネスク」と「ゴシック」について
「死と生の遊び」(酒井健著 魁星出版)の2つの単元をまとめます。ひとつは「闇のなかの生命」でロマネスクについての論考です。もうひとつは「魅惑する列柱の森」でゴシックについての論考です。「今日の美術史家たちは、(ロマネスクは)観念を追い求めたと主張する。ギリシャ・ローマの古典美学が目に見える自然界の事物の中に美の形を、その理想形を見出していったのに対し、中世の美学は、自然界の事物を虚構とし、超自然界の精神的内容(例えば神の崇高さ)こそを現実と捉え、美とみなして、その表現化に努めたと主張する。つまりロマネスク美術は、図像を、精神的内容を指し示す象徴記号として描きだすことに努めた。自然界の調和の再現などにこだわらずに、非自然主義的にそうしたと主張するのである。」その背景となるロマネスクの時代について書かれた箇所を引用します。「10世紀末、ロマネスクの時代に入ると、異民族の侵略はやみ、平和のうちに大地の豊饒が農業生産を活気づけるようになる。それに応じ、民衆は『最後の審判』の脅しに圧倒されなくなり、修道士は”遊び”に向かうようになった。柱頭には、ひょうきんな怪物や繁茂する植物が彫り込まれだす。極端な場合には、タンパン(扉口上部の半円形の石壁で彫刻がよく施されていた)にまで植物は生い茂ってゆき、裁きのイエスを取り囲むようになる。」次にゴシックについてです。「ゴシックの発祥の地は北フランスである。1140年代から、パリを中心とするイル・ド・フランス地方の各都市の大聖堂に、ゴシック様式による再建の動きが広まっていったのである。その建築上の特徴は、昇高性をアピールする尖塔アーチの使用、内部空間の広大さ、長大な窓にはめこまれたステンドグラスにあるが、注目すべきは、堂内に感じられる自然影、とりわけ左右の列柱とその頂きから伸びるアーチがかもしだす森林のイメージである。そこからは、開墾の大規模な進行とともに急速に失われつつあった森林へのノスタルジーがうかがえる。」ここでロマネスクとゴシックの相違について述べられた箇所がありました。「キリスト教と異教の融合ということでは地方のロマネスク教会堂もすでにこの傾向にあったのであるが、ロマネスクの自然影は一見して無骨であり、ゴシックの方は洗練されている。この相違は、しかし、都市民の方が美的感覚にすぐれていたということではない。ロマネスクの方が大地の生命とのつながりを密接に、強力に、持っていたということ、ゴシックのスマートさは、大地とのつながりを失った根無し草たちの悲哀、弱さに発していたということなのである。」