Yutaka Aihara.com相原裕ウェブギャラリー

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版画家と漆芸家の親子展に行く
銅版画家加藤正さんは、私の大学の先輩で、若い頃から国内外で発表してきました。樹木や植物をテーマに緻密に絡み合う情景を具現化して、それを腐蝕銅板にしてクオリティの高い画面を作り上げていました。若い頃は小さな下宿で、大作に挑んでいた彼の姿が忘れられません。樹木の枝が集積し、その要素だけで天地創造するような世界を作り上げて、さまざまな版画展で認められていました。最近はイメージを素早く具現化できるモノタイプをやっていて、その数は500点以上に及ぶと本人が言っていました。モノタイプとは、版に直接インクなどの描画材を用いて描画し、その上に紙をのせて圧力をかけることにより、版に描画したイメージを紙へと転写する版画技法です。嘗て作っていた銅版画は複数枚刷れるのに対し、モノタイプは1点ものという技法です。モノタイプに技法が変わっても、彼の樹木や植物に対するテーマは変らず、さらに画面全体が自由になって、色彩も豊かになりました。ご息女の萌さんは、東京藝大で漆芸を学び、岡山県のワイン農家を手伝いながら制作を続けています。写実的な動物がテーマで、住まれている山奥の周囲にはさまざまな野生の動物がいて、動物に出会った一瞬を捉え、乾漆で立体化しています。胴体の半分を漆で覆い、和紙を貼った乾いた部分と漆による鏡面仕立ての部分があって、独特な個性を醸し出しています。夜の闇に姿を現す動物は、このように見えると本人が言っていて、その視点の捉えが面白いなぁと感じました。「加藤正・萌作品展」は銀座7丁目のギャラリー田中で開催していましたが、今日が最終日でした。今まで私は親子別々の個展にはそれぞれお邪魔していましたが、親子展は初めてで、また家内を連れていくのも初めてでした。正さんと私は30年以上の長いつき合いで、いろいろなエピソードがあり、その一部を話したところ、萌さんの知らないこともいっぱい出てきて、楽しい話題になりました。また親子展が出来ることを、私は切望しています。