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六本木の「京都・智積院の名宝」展
昨日は東京六本木にあるサントリー美術館で開催している「京都・智積院の名宝」展に行ってきました。私が見たい本展の作品は長谷川等伯一門による障壁画でした。長谷川等伯といえば《松林図屏風》が有名で、水墨の濃淡で描かれた幽玄の世界を幾度となく堪能している私は、今回の金碧障壁画は言わば対極的様式を成すもので、等伯の画力の凄さを知ることになりました。当時、等伯は狩野永徳とライバル視される地位に上り詰め、狩野派を脅かす存在になっていたようで、《桜図》や《楓図》を見ると確かにその描写や構図の堂々とした佇まいは、豊臣秀吉が幼子鶴松の菩提を弔うために依頼した経緯が理解できます。図録によると「宋元絵画における花鳥図を積極的に学んだ成果によるものか、複数種の草花を無造作に交差させ、勢いよく生い茂らせている。ここに狩野派とは異なる野趣あふれる魅力が演出されているといえよう。」また《桜図》にはこんな文章がありました。「等伯は永徳の桜図を構想の下敷きに描いたと自然に推定される。さらに、桜の描写そのものも、天瑞寺障壁画においてすでに胡紛を盛り上げて花弁を表わし、『浮きザクラ』として評判を呼んだことが史料により確認できる。」続いて《楓図》。「《楓図》に描かれた楓も桜と同様で、緑から赤に色づく楓の紅葉を、同じサイズの楓型に切り取った色紙を上下左右に貼り付けるようにして画面を展開させるかのようだ。工芸的と言えば工芸的、装飾的と言えば装飾的であるが、思えば春の花見も、秋の紅葉狩りも、単純に満開の花や赤い紅葉をみれば人々は満足したのであり、奥行きのある山野の自然な姿の再現よりは『満開の花』『紅葉の鮮やかさ』という単純なみごとさこそを直截的に伝えるべく強調して狙ったのだと言えよう。」(引用は全て石田佳也著)確かに障壁画の画面は大きく絢爛豪華たる雰囲気で、人を圧倒するのには十分な力量を感じました。私が注目した作品がもう1点ありました。《十六羅漢図屏風》です。羅漢の個性的な風貌とユーモラスな雰囲気に時間を忘れて見入ってしまいました。等伯71歳の作品と記されていたのですが、《桜図》を描いた等伯の長男である久蔵は26歳で早世しています。本来なら父の跡を継いで一門を率いる存在だったはずですが、残念なことになったなぁと思ってしまいました。それでも作品は後世にまで残り、長谷川等伯一門の在りし日を伝えています。