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「花嫁のヴェール」④について
「マルセル・デュシャン全著作」(ミシェル・サヌイエ編 北山研二訳 未知谷)の「第一章 花嫁のヴェール」は、デュシャンの「彼女の独身者たちによって裸にされた花嫁、さえも」という大きなガラスを使った代表作品の思考経路やその思索を紹介した章です。本章を最後まで読んでみましたが、作家独自の視点とコトバによって分析された世界観に、なかなか馴染めなかった自分がいました。国際的に見ても稀な芸術家の創作ノートやメモを覗いてみたいという興味はありましたが、記述された文章を詩と捉えたらよいのか、作家自身の感性に立脚した論理が、通常の論理とは異なるもので、そこに入り込む能力が自分には足りないかなぁと思いました。おそらく著者も残された多くのメモから取捨選択をして「マルセル・デュシャン全著作」としてまとめたものかもしれず、本書は謎の多い書籍であるのは間違いないと思っています。単なるメモ書きというものであるならば、こんな箇所に興味が出ました。「『独身者たちによって裸にされる花嫁』のためのノート(習作『処女から花嫁への移行』)〈花嫁〉について、銀白と淡い黄土によって得られるライトモティーフとしてのバラ色。少量の金色の黄土。赤色にはより多くの淡い焼き黄土が加わる。暗い視野は、黒色と焼きシエナ土と金色の黄土、そしてまたキプロスの焼きアンバーによって得られる(赤くするには少量の淡い焼き黄土)。左側は、緑がかったところはヴェローナの緑土と明るい淡い黄土と黒色によって得られる。中心では、暗い部分はキプロスアンバーを含む。つくるべきもの、〈独身者たち〉について、暗い部分を得るために、プルシアン・ブルーを用いる。プルシアン・ブルーは、〈花嫁〉とともに熱くなり、〈花嫁〉とは十分異なるだろう。感覚で受け取るすべての色に対応する紙を、つまり一定の光(太陽光、人工光などなど)のなかのさまざまな差異ではなく、さまざまな色つき光源に対応する紙を探し出すこと」デュシャンは作品に使用する色彩や紙にも意味を持たせているのが分かります。これは単なる思いつきではなく、熟考した結果に導きだしたもので、「彼女の独身者たちによって裸にされた花嫁、さえも」は細部に至るまで思索がゆきわたっているのが、本章全体を通して理解できます。今回はここまでにします。