Yutaka Aihara.com相原裕ウェブギャラリー

note

六本木の「木島櫻谷」展
昨日は工房で作業をした後、家内は邦楽の演奏に出かけ、私は東京六本木にある泉屋博古館東京で開催している「木島櫻谷ー山水夢中」展に行ってきました。泉屋博古館東京に私は初めて行きました。展覧会場は大変見やすくて、広さもちょうどよいと思いました。日本画家木島櫻谷(このしまおうこく)のことを、私はテレビで情報を得ました。その折、映像に映し出された写実的な作風に好感を持ち、これは映像だけでなく実物を見に行かなければ真価は分からないと思い立ったのでした。木島櫻谷は明治時代から昭和時代初期まで活躍した画家で、主に京都画壇を中心に作品発表をしていた人だったようです。会場には大きな屏風や京都南陽院本堂障壁画が展示されて、静謐な雰囲気が漂っていましたが、私が注目したのは写生帖、スケッチブックの類で、風景や人々の暮らし、動物を写し取ったものとして、その圧倒的な質量に目を見張りました。図録より引用いたします。「写生帖に描き止められたものは、山や川、海などの眺望を遠近様々にとらえるほか、岩や樹木など細部観察、ことに渓流や滝、海岸での岩と水の動きをよくとらえている。櫻谷の水への関心の高さは、ある雑誌の『画家の観たる絶景の地』なる特集で『四国の山は峻峭雄抜であるが其割合に水の平凡なところである、清らかで宛ら碧色の玻璃を張ったが如く澄んで居るが、渓流に何らの趣もないのである。吉野川の上流を跋渉したことがある、山は嶮岨で頗る面白かつたのに引き代へ渓流の詰らなさ加減、丁度池のやうに緩くて流れて居るのが淀んで居るのが更に分らぬ随つて奔流急湍、岩に激すると云つた所がなかつた』と、ことさら手厳しく述べることからもうかがえる。」(実方葉子著)写生には妥協をしなかった櫻谷の思いが伝わる文章です。図録には小さな写生図版が掲載された黄ばんだような頁があり、それがあまりにも洒落ているので、私は図録を購入した次第です。丁寧に描かれた本画は、この写生に支えられているのだということをこれほど強く感じた画家はいなかったと私は思っています。エスキースをやらない私にとっては、アプローチが異なると言ってしまえばそれまでですが、作家の内面を浮き彫りにするスケッチやエスキースは、重要な創作物だと考えました。