Yutaka Aihara.com相原裕ウェブギャラリー

note

「牧場」について➁
「風土」(和辻哲郎著 岩波書店)の「第二章 三つの類型」の「3 牧場」について、気を留めた箇所を選びます。「3 牧場」はヨーロッパの気候風土を指し、結構長い論考であるため、3単元に分けていきます。今回は➁として、ギリシャのポリスの起源について述べられた箇所を中心に据えます。「農業労働の主要なものは牧畜と果樹作りとである。従って農業は気象の不安定に脅かされることなく、規則正しい季節の循環雨期の到来によって、あまり豊饒ではないがまたあまり乏しくもない農作物を比較的確実に生産し得る。このことは風土が生活必需品の生産を牧場的に規定しているということを意味する。そこでは自然の恵みが豊かではないがゆえに、従って自然に忍従して恵みを持つを要しない。とともに自然に対抗して不断に戦闘的な態度を取らなくてはならないほど自然が人を脅かしもしない。自然は一度人力の下にもたらされさえすれば、適度の看護によって、いつまでも従順に人間に服従している。この自然の従順がまず生産を牧場的たらしめるのである。」そうなると人間は何を考えるのでしょうか。「ギリシャにおける自然との調和は自然の人間化であり人間中心的な立場の創設であった。そこで自然からの解放は自然との戦いからの解放、従って、人間の活動の激性となった。人間の競争、従って権力欲や遊戯欲による人と人との摩擦、あるいは人間の創造力の拳揚、従って知識欲による理性の発展や創作欲による芸術の産出、それらがこの新しい立場をひき起こした新しい形勢なのである。」やがて人間は競争意識から武力を持つに至るのです。「農牧の民が武士の団体に転化するとともに、ギリシャの『ポリス』もまた初めて形成せられた。部族を異にし祭儀を異にする若者たちが争闘や奪掠のために団体を結成したとき、この戦闘団体にとって部族や祭儀の別よりも共同防衛の方が重大事であった。彼らはある土地を占領するとともに要害の場所をえらんで石垣を囲らし共同の敵に備える。この中で人々はその背負って来た伝統を振りすてて新しく生活の共同を実現する。そこにポリスの生活、ポリスの祭儀が新しく始まったのである。」つまりポリスとはどのようなものだったのでしょうか。「そこで我々はいうことができる、牧場はその否定を通じて特に人間的な創造活動に進展したと。緑の美しい牧場、すなわち従順な自然は、一方において人間の生に没頭する競闘の立場を作り出すとともに、他方において人間を自然の中へ押し戻してしまった。人間はここで神々のごとく生きる市民と家畜のごとく生きる奴隷とに分裂する。」今回はここまでにします。