Yutaka Aihara.com相原裕ウェブギャラリー

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「巡礼者たちのヴィジョン」について
「カラヴァッジョ」(宮下規久朗著 名古屋大学出版会)は今日から「第4章 幻視のリアリズム」に入ります。まず「1 巡礼者たちのヴィジョン」の気になった箇所を取り上げます。「ローマのナヴォーナ広場にほど近いサン・タゴスティーノ殿堂に入り、左側廊を歩くとすぐに《ロレートの聖母》とよばれるカラヴァッジョの絵が見える。」本単元では、この《ロレートの聖母》を中心にして論考が展開しています。「神秘的とはいっても、聖母は扉の付柱にくっきりと影を投げかけており、単なる幻ではなく実体化していることがわかる。しかし、この聖母は二人に巡礼者のみに顕現したものであり、聖母子が実体化しているのは彼らの心のうち、あるいは視野の中においてのみである。しかし観者である我々は、二人の巡礼の薄汚れた姿だけでなく、彼らの目に映った聖母子の姿を同時に見ている。つまりこの画面には、巡礼のいる現実の聖域の空間と、巡礼の幻視の空間というふたつの異なるレベルの空間が共存しているのである。」カラヴァッジョの宗教画は、ほとんどすべてが幻視表現として読み取ることができます。幻視とは実際に存在していないものが見えることで、神や聖人などのイメージを目にすることです。「カラヴァッジョの場合、はっきりと幻視者が存在する、つまり幻視者のいる現実の次元と幻視の次元とが判然と区別されて共存する一般的な幻視画は、《ロレートの聖母》のみである。しかし、他の作品においても、これほど明確でなくとも同じような性格をもった幻視表現を見出すことができる。カラヴァッジョの作品のほとんどが、現実の空間を突如破って現れる幻視空間を表現したものと見ることもできるのである。」今回はここまでにします。