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「バロック的ヴィジョンへ」について
「カラヴァッジョ」(宮下規久朗著 名古屋大学出版会)の「第4章 幻視のリアリズム」から「4 バロック的ヴィジョンへ」の気になった箇所を取り上げます。この単元で第4章は終了です。本単元ではベルニーニが登場してきますが、ベルニーニと言えば、私は劇的な彫刻を作るバロック時代の巨匠と認識しております。「現実性を取り込んだカラヴァッジョ的なヴィジョン表現は、ベルニーニによって発展し、変質していったのである。」ベルニーニに関するこんな記述もありました。「ベルニーニはこのように絵画・建築・彫刻、そして光を融合させた総合芸術によって観者のいる現実空間を神秘劇の劇場に変容させたが、カラヴァッジョの場合も、《聖パウロの回心》のチェラージ礼拝堂のように現実の光を取り込むことや、《エマオの晩餐》や《キリストの埋葬》などに見られるように、観者の視点に合わせて画面を構成し、画中から突出するイリュージョンや、画中に民衆や写実的な静物のモチーフを導入することで画中の空間を観者の空間に接続させること、そして《聖ルチアの埋葬》や《ラザロの復活》のように、設置される空間の歴史や環境を考慮してこれを作品に反映させるといった、様々な手法によって現実空間にヴィジョンを現出させる『劇場化』を試みていた。ベルニーニは、カラヴァッジョが絵画のみで行った空間の劇場化を完全に理解し、彫刻や建築を動員して完成させたといってよい。」さらにカラヴァッジョに関してこんな評論もありました。「アルガンはカラヴァッジョのリアリズムとは、『生ではなく死の側から眺めた世界のヴィジョン』であると評したが、それは、ありふれた現実を突如として奇蹟的なヴィジョンに変貌させる特異なリアリズムであった。現世の事象のうちに神の啓示を見るだけでなく、そのヴィジョンを誰にでも触知でき、どこにでも起こりうるものとして表現したのである。客観的なリアリズムを通して内面的なヴィジョンを表現しえた点にこそ、カラヴァッジョの真骨頂があるといってよいだろう。」今回はここまでにします。