2025.03.04
「名画を見る眼 Ⅰ」(高階秀爾著 岩波新書)の最初の単元はファン・アイクの「アルノルフィニ夫妻の肖像」とボッティチェルリの「春」です。中高美術科の教科書にも取り上げられている名画を改めて学び直すことで、西洋絵画への理解を深めたいと思います。まずファン・アイク。「油絵の技法の登場が絵画の表現能力を飛躍的に高めたことは否定し得ない。そして、その油絵の技法が、ファン・アイクを中心とするフランドル地方でまず発達したということは、この地方が早くから活発な商業活動を示していたことと無関係ではないであろう。商人たちの現実主義的なものの見方というものが、油絵による写実的表現の大きな支えになっているからである。その意味で、多くの中世以来のシンボル表現の伝統を受け継ぎながら、それらのシンボルを日常的に現実表現のなかにさりげなく覆い隠し、新しい市民的室内肖像画を創り出したこの『アルノルフィニ夫妻の肖像』は、やはり新しい時代の到来を告げる輝かしい序曲であったと言ってもよいであろう。」この作品の四角い部屋の正確な遠近法と緻密な装飾の数々に、私は思わず引き込まれていく感覚を持ちました。しかも部屋に掛けられた凸面鏡や窓から差し込む光の演出が、写実の持つリアルさを際立たせているように私には思われました。次にボッティチェルリ。「ボッティチェルリの作品の持つあの夢のような澄んだ色彩効果や、日本の琳派の作品を思わせる装飾性などは、このテンペラの技法によるところが大きい。『春』が背景を林で覆ってしまって、人物をなるべくおたがいに重なりあわないよう、平面的な構成をとっていることは、テンペラ画の持つ装飾的効果を強調するためには、きわめて適切な構図法であると言える。ボッティチェルリは、ファン・アイクのように鋭く現実のものに肉薄するというよりも、哀しいまでに美しい理想の美の世界に憧れる抒情詩人だったのである。」テンペラ画は油絵以前の技法として、イタリア・ルネサンスで多用された表現で、私が若い頃、イタリアに出かけた時に、各地にあったフレスコ画やテンペラ画の表現の豊かさに圧倒されていました。私の西洋絵画遍歴はそこから始まったと言えるでしょう。