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ベラスケス「バリェーカスの少年」について
東京上野にある東京国立西洋美術館で開催されている「プラド美術館展」で、最も呼び声の高い芸術家はベラスケスです。ベラスケスは写実主義絵画の巨匠ですが、描かれた人物の風貌や静物の質感には、目を見張るような表現力を感じました。肖像画の前で時間を忘れるほど佇んだことはレンブラントの絵画を見た時以来かなぁと思っています。一連の肖像画の中で、その特異性で際立ったのが矮人を描いた作品でした。ベラスケスの「バリェーカスの少年」より前に「矮人の肖像」と題名のついたファン・バン・デル・アメンの作品がありました。王侯や貴族が、矮人を身近に置く習慣は古代東洋から始まり、ペルシャ、エジプトを経てギリシャ、ローマ帝国に伝わったようです。彼らを召使いとして仕えさせる動機は、彼らに不完全性や愚かさを見取り、逆に貴族たちは自らの完成性を認識し、その慈愛と寛容を示したのでした。現代では差別的とも捉えられる動機ですが、ベラスケスが生きた時代ではその慣習が定着していました。ベラスケスが描いた「バリェーカスの少年」は、医学的見解では脳水症を患った少年だったようですが、ベラスケスはその障害をことさら強調することもなく、画家の視点もモデルと同じ目線に置かれているため、対象の奇異な雰囲気は感じられません。ありのままの少年を描いているので、前述した「矮人の肖像」と比べると、暫し眺めていないとモデルが矮人なのかどうかがわからないほどです。そうした自然な状態を感じさせてくれる描写表現にベラスケスのベラスケスたるところがあると思うのです。どんな作品であれ、自然の摂理を感じる作品は忘れられない印象を残すと私は思っています。美術史に名を遺した芸術家の作品には、こうした要素があると私は常々確信しています。