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映画「あなたはまだ帰ってこない」雑感
常連にしている横浜のミニシアターは夜9時から上映されるレイトショーがあります。昨夜は仕事から帰って自宅で夕食をとってから、フランス映画「あなたはまだ帰ってこない」を観てきました。映画の紹介文に「第二次世界大戦時のナチス占領下のパリ。1944年、マグリット・デュラス30歳。夫のロベールは地下でレジスタンス活動をしていたため、ゲシュタポに突然連れ去られる。それが、彼の帰りを祈り、彷徨い、苦悩する、彼女にとっての愛のための人生の始まりだった…。」とありました。デュラスと聞いて、私は学生時代に場末の映画館で観たモノクロ映画「かくも長き不在」を思い出しました。「あなたはまだ帰ってこない」とは別の物語でしたが、当時私の胸が締め付けられたことを鮮明に覚えています。デュラスは作家であり、事実を日記として綴っていたことが「あなたはまだ帰ってこない」(原題は「苦悩」)の下敷きになっているようです。図録によると「『苦悩』では、ナチの収容所にいるという夫に関する情報のためなら、藁にでもすがりたい気持で奔走する妻の心の内を描いているが、そこでは常に不安な波紋が収まることはない。もしかしたら偽情報ではないか、と不安に押しつぶされながらも、自分の行動を止めることができない。」(村上香住子著)とあり、彼女には夫の帰還をただ待つという受動的な仕草はなく、情報を得るため自らゲシュタポの手先に近づき、逢瀬を繰り返す危険を冒すこともしていました。戦争が終結して捕虜が帰還していく情景を眼のあたりにして、彼女の失望と期待が交差する場面は、観ていて息が詰まりそうでした。やがて終章に瀕死の夫が友人に支えられて帰ってきますが、もう以前の夫ではなくなっていたことで、何か空虚な感情に私は支配されてしまいました。戦争による破壊や戦闘があるわけではないのに、その悲惨さを余すところなく描いた本作は、私の忘れられない映画の一つになりました。