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「見えないものを見る カンディンスキー論」読後感
「見えないものを見る カンディンスキー論」(ミシェル・アンリ著 青木研二訳 法政大学出版局)を漸く読み終えました。本書は職場の私の部屋に置いたまま、時には数か月も放ってありました。前の職場から現在の職場へ移動した書籍の一つでもあります。NOTE(ブログ)によると、初めに手に取ったのが2017年11月29日だったので、ほぼ2年がかりで読破したことになります。著者のミシェル・アンリは「精神分析の系譜」等を著した現象学者で、読み進めていくうちに哲学書全般に見られる周到に用意された語彙の理解が必要になってくるのを感じていました。途中で挫折するかもしれないと思ったことは数知れず、それでもその危機感を救ったのは、本書が私の大好きなカンディンスキーの絵画理論に基づいていることが大きかったと振り返っています。内容を一言で言えば、訳者があとがきで書いている通り「写実主義の絵画を初めとしてあらゆる絵画は抽象絵画に包摂されるという点」にあります。カンディンスキーが生きた時代は、新しい芸術が理論と共に生まれた時代と理解していますが、今読んでいる画家モディリアーニの生涯を考えてみると、不思議な感覚に陥ってしまいます。カンディンスキーは1866年生まれ、モディリアーニは1884年生まれで、カンディンスキーの方が18年も前に生まれているのです。もちろん、ピカソのキュビズムやフジタたちのエコール・ド・パリもあって、欧州芸術界は百花繚乱の雰囲気がありましたが、それにしてもカンディンスキーの「芸術における精神的なもの」を初めとした絵画理論の数々は、この時代にすれば飛び切り新しいと言わざるを得ません。造形美術が哲学を纏うようになった最初の人がこのカンディンスキーではないかと思うのですが、いかがでしょうか。因みにモンドリアンは1872年生まれ。同時代と言えばその通りで、エコール・ド・パリの時代に次の時代を予感させる抽象絵画が始まっていたのでした。