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板橋の「深井隆ー物語の庭ー」展
昨日、東京板橋にある板橋区立美術館で開催中の「深井隆ー物語の庭ー」展に行ってきました。板橋区立美術館は過去に数回訪れたことのある美術館で、規模は大きくないけれど美しい空間をもつ美術館です。ただし、私の住む横浜からはかなり遠くて、嘗ては公共交通機関を使ったので電車を乗り継ぐのが大変でしたが、車で行くと割とすんなりと行ける美術館だったことが分かりました。彫刻家深井隆氏は私より5歳上の木彫家で、同じ世代と言ってもいいと私は勝手に思っています。経歴を見ると、藝大のアトリエで制作していた彼の方が恵まれた環境にあったように思いましたが、樟を使い、椅子や馬を象徴的に扱っている作品は、どこかの機会で拝見したことがありました。重厚感のある木彫の椅子に翼があったり、馬の上半身が彫られていて、これは何を意味するのか考えたこともあり、ただ、これは単体として彫刻を見せるのではなく、周囲の空間を意識して詩的なイメージを掻き立てるものではないかと察していました。何しろ空間の捉えが美しく、彩色した彫刻に自然な美を見て取れるのは、作家本人のイメージや考え方がしっかりしているためだろうと思いました。私がやっている陶彫もそうですが、自分の中で技術も含めて充分実材を咀嚼しておかないと、実材ばかりが目立ってしまい、何が作りたいのか分からなくなる傾向があるのです。作家のイメージが優先して見られるのは、長年にわたって樟という素材に、作家が正面から真摯に取り組んできた証と言ってもいいと感じました。質が高く、緊張した空間に私自身も活力をもらった展覧会でした。最後に図録にあった言葉を引用いたします。「『人間の存在とは何か、これを椅子、馬、柱といった形をかりて表現したい』という言葉からも明らかなように、深井が40年以上にわたる制作の中で作り続けたのは、人間の存在である。深井が人間の存在をテーマとしながら、作品の中に人間の形が認められないということは、ある特定の時代の人物ではなく普遍的な人間の姿を追求しているからであろう。」(弘中智子著)